三谷幸喜の「オリエント急行殺人事件」 ← これは2015年の1月に見たドラマの感想です。
そのドラマを見たのはもうそんな前かと、月日の流れの速さに驚くのはひとまず置いておくことにしましょう。
その感想の中での夫と私の会話。
>私が
「杉下右京には絶対に出来ない選択だな。」と言いました。
彼
「だって右京は警官。ポワロは探偵だからね。この人だって本当は苦渋の選択だったと思うよ。凄く悩んでこの結論を出したと思う。」
ー えっ、そんなシーン、あったっけ?
その後で、「名探偵ポワロ」を検索して、そちらのドラマの中ではポワロの苦悩が描かれていると言う箇所を見つけて、夫殿はそのドラマと脳内リンクしたに違いないと思ったのでした。
そして今年になって、やっとずっと未見だったスーシェの「オリエント急行の殺人」を見る事が出来ました。
有名な物語なのでネタバレして書いています。
<いやいや、まだ読んだり見ていないので犯人を知りたく無いよと言う方は、犯人についてはまったく触れる気はありませんが、何か知りたくない事を知ってしまうと思います。ご了承くださるか、見た後にまたお越しくださいませ。>
「凄く悩んでこの結論を・・・」なんて言葉では語れない、ポワロの苦悩がそこには描かれていました。
泣いたと私が言っても、この人はすぐに泣くんだとそろそろばれているころだと思うので、「泣いた」と言うのは良い作品であると言うアピールにはならないと思いますが、心が動かなければ泣くなんてことはありません。だけどよもやの「オリエント急行の殺人」で声をあげて泣きたくなるなんて思いもよりませんでした。
1974年にイギリスで制作された映画は、オールキャストで本当に面白かったのです。
そしてなぜかラストは明るい雰囲気で終わったのです。これはオールキャストの娯楽物として音楽などで工夫したらしいのですが、もちろんシナリオもそうだと思います。オールキャストゆえにカーテンコールを意識してラストは乾杯のシーンで終わると言うのも「良かった良かった」と言う雰囲気を盛り上げました。
でもこれは原作が書かれたころは、この事件のモデルになったリンドバークの子息の誘拐事件は解決してなかったし、事件解決の方法としてこの物語は驚きと共に受け入れられたと思います。また娯楽作品として見るならば裁かれない悪に鉄槌を下すと言うのは、いわばジャンル的に「アリ」なのだと思うのです。
日本でも「必殺仕置人」などに人気があるのは、そんな現実ではありえない世界の物語として観客が理解しているからこそ存在しているものなのですよね。
そして記事にも書きましたが、三谷氏の「オリエント・・・」は、どちらかと言うと、この映画作品へのオマージュであったように感じました。だけど爽やかな終わり方に微かな違和感を感じたのは「正義の殺人」など許されるわけがないからです。
ゆえにスーシェのポワロの苦悩は、本当に胸に迫って来るものがありました。
そしてこの物語は、本当に演出&シナリオも凄かったですね。冒頭、まさに犯人を追い詰めようといつものポワロ節がさく裂。だけどその時に犯人は命を目の前で断ってしまうのです。
罪を暴く事だけが正義なのかと、そのシーンは見ている私たちに問うていたのでしょうか。だけどポワロの信念は揺るがずー。
オリエント急行に乗り込む前、中東の街でポワロは、不貞の末に妊娠した女性が街中で石を投げられ引きづられ裁かれるシーンを目撃してしまいます。思わず涙ぐむポワロ。
異文化の感覚と道徳には立ち入ることは許されず、何もすることはできません。
そんな冒頭で始まるのは、罪とは何か、裁きとは何かと、やはり私たちに問うていたのかも知れません。
ポワロが最後に下した判断は、もちろん原作通りです。
だけどとても「カンパーイ」なんて明るさは皆無です。
苦渋の決断。それがまさに伝わってきました。手に握りしめた十字架に、ポワロは心の中で何を呟いていたのでしょうか。
ー 神よ、赦したまえ。
だったかも。
当たり前です。見逃すことで、ポワロは彼らと同罪になってしまったとの解釈もできるのではないでしょうか。
もともとサスペンスとして発想が素晴らしいので大好きでしたが、こんなにも感動できる物語になったとは、本当に「名探偵ポワロ」の「オリエント急行の殺人」は素晴らしかったです。
これはGYAO!で明日まで視聴できるほか、nhkbsプレミアムで1月21日4時から放送されます。
オールキャストでチョー傑作。これはこれで大好き。
オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD] | |
アガサ・クリスティ,ポール・デーン | |
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン |
これはこれで大好き(笑)
オリエント急行殺人事件 DVD-BOX | |
野村萬斎,松嶋菜々子,二宮和也,杏,玉木宏 | |
ポニーキャニオン |
やっぱり、これが一番好き。
名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 4 | |
デビッド・スーシェ | |
Happinet(SB)(D) |
もちろん原作も。
オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) | |
山本 やよい | |
早川書房 |
とにかくみんな好き♪
遂に書かれましたね。
クリスティー作品のの中でも私の大好きな作品の1つです。
その昔初めて原作を読んだ時は衝撃を受けましたね。 意外な結末に、こー来たかっ!っ
て感じでした。
アルバート・フィニー版を見たのも随分昔の事とて詳細は覚えていないのですが、拙宅に
も書きました様に、フィニーのポアロはチョットイメージと違う様な気がしたのですが、兎に
角出演者が皆豪華版だった事は良く覚えています。
スーシェ版を見たのも大分前なのですが、凄く良かったですね。泣かなかったけど(笑)感
動しましたよ。
フィニーのポアロは探偵としての視点で一歩引いて見ていた様な気がするのですが(もし
かして記憶が・・・)、スーシェ版は探偵としてのみならず、1人の人間としての感性と感情
苦悩が良く現れていた様な気がしています。
あ、そうそう三谷版も見ました。 萬斎さん好きなんで。
ただ、今ひとつって感じでした・・・スミマセン。
>遂に書かれましたね。
そのお言葉に、思わずニヤリとしてしまいました(笑)
ポワロシリーズ、作品がいっぱいあるので感想を書きだしたら困った事になってしまうかもと、躊躇しているような所があるのでしたが、この作品は書かないわけにはいられない衝動に駆られました。
フィニー版は、ゴージャスな楽しい映画に感じましたので、個性が強すぎるような気がしたポワロでも、気張らないと影が薄くなるような気がしました…と言っても遠い昔の記憶です。私は彼の後のポワロ役になった人が、まったくイメージに合わないでずっと原作とは別物と思っていました。
だからイメージ通りのスーシェさんが大好きになり、感情移入しやすくなったのは自然の成り行きかも知れませんね。
三谷版は、萬斎さんには問題がなかったのだけれど、彼のシナリオは、どうも犯人側に寄り添うなと、以前「古畑」を見ていて思った事があるのです。それがその作品にも出ていたように感じました。
「今ひとつ」にお感じになったのは、その辺に理由があったんじゃないかと…・推理しました(笑)