琵琶湖の北にある賎ヶ岳を一つ隔てた裏側に余呉湖はある。若狭に生まれ、この付近の西山という村の養蚕家に15歳で奉公に出て、糸とりをしている間に桐谷紋左衛門に見初められ、京都で女中をして暮らした「さく」。再び西山に帰って、姿を消してしまう短い生涯が『湖の琴』(水上勉著)に描かれている。
【自分でよった琴糸で首をくくって死んださく。その観音様のような美しい死に顔を誰にも触らせたくないと思った宇吉は、さくを糸箱に収めて、余呉の湖の深い淵へ沈めて葬ってやろうとう考える。(糸を入れて湿気の来ないように密閉してふたを閉め、遠方に送るための箱は、この辺りの農家には必ずあった)
「角のまるく温かそうな石を選って詰め終った頃だった。今まで、風が吹いて騒いでいた淵の水が、突然ぴたっと動きを止めた。とみるまに、空にたれこめていた黒雲が割れ、ふたたび月光がさした。…月はさくの冥府への旅立ちに、明りを添えてくれようと、わざわざ、ひろい余呉の湖の龍神の岸にだけ、ぽっかりと明りの輪をくれたようだった」
さくのいなくなった淋しさ、いっそのこと一緒にと、宇吉も湖底に向かって沈んでいく】
「天女の衣掛柳」
こんな舞台となった余呉湖を今日訪れてみた。「賤ヶ岳の戦で死んだ侍が、鎧を着けたまま眠っておると言う人もいる」(『湖の琴』)余呉湖。さほど高くはない山々が周囲を取り巻いているが、なかでも険しく切り立って落ち込んでいる賤ヶ岳方向を見やりながら、一周6キロほどのところ(南のほうは周辺の道路工事と重なって通行止めという事情もあって)歩いたのは半分ほどだったろうか。周囲の山々の緑の美しさ。水田風景の爽快さ。寄せるさざ波の音、ウグイスにトンビにカエルが鳴いて、鴨が飛び立つ。ヒメオドリコソウの群生、目も耳も心も奪われながら湖のすぐはたをゆっくり歩を進めた。琴の音を湖畔に聴くには、晩秋の夕暮れ時のほうがふさわしそう。
『ガラスの壁』(芝木好子著)では、瑤子と萩生が菅浦から余呉湖を訪れ、神々しい残雪の山に囲まれた暮れゆく湖を眺めている…。
今日は私たちも、「余呉湖行楽の帰り、高月の渡岸寺に詣で、十一面観音の艶やかな姿を見た」水上氏の行程をなぞった。1時間に1本の電車に合わせ、余呉から木之本、高月と2駅戻って、渡岸寺に立ち寄った。
と驚いたことに、つい先日22日に「観音めぐり」バスツアーでガイドして下さった方と観音様の前でお会いし、今日はここで説明を受けることになった。なんてご縁!! 氏は今年77歳に。
『ガラスの壁』は初めて聞きましたが、。
『湖の琴』は少し記憶の奥にあるような???
ガイドさんと再会なさって「ご縁」ですね。
新緑も菜の花も水面に映えて素敵です。
湖面を渡る風が心地よかったことでしょう。
よき旅の一日でしたね。
全集で読みました。
『群青の湖』を読んだ後、芝木好子さんの文庫を何冊か購入していたのですが、その中に『ガラスの壁』がありました。
お天気もよく、腰を上げやすい季節に足を伸ばしています。
風はとても心地よいものでした。湖畔に寄せる波も大きく、すぐはたを歩く時には少し怖さも感じるほどです。
のどかなところです、いいですよ~。
余呉町にはコンビニと工場がひとつもないそうです。
「湖の琴」という話はなんとも悲しく
心に残ります。
さて、本当にいろいろとありがとうございました。
おかげさまでなんとか復活です。
「天女の衣掛柳」の伝説など、さらには賤ヶ岳古戦場などなど。
琵琶湖のほとりを舞台に、様々な人間模様が浮かぶ「余呉湖行楽」
素敵な一日となりましたね。
過去にひもとかれた物語などが改めて思い起こされるkeiさんの読書量と重なって、余呉湖が「格別な出会い」まで準備して待ってくれていたようですね。
これからも、色んな所を案内してくださいね。
読まれたのですね。
こうした水のある風景は非日常ですので、気持ちも洗われます。
お寂しいこととお察しいたしております。
ゆっくりゆっくりご自分のお心を癒していかれたらよいのだと思います。
お身体大切にお過ごしください。
昔から長浜、彦根、木之本あたりは桑畑が多く、製糸工場が多い所だったようです。
余呉湖には大勢の仏が眠っている、そんな古老の話も本当に聞こえます。
仏さまに引き寄せられたご縁です、きっと。
ちょっとの遠出でリフレッシュしました。
主人公・さく は若狭の寒村の出でしたね。水上さんのご出身とも重なります。
昔、「湖の琴」を読み終えて以来ずっと、度岸寺の十一面観音さまと、美しい「さく」をオーバーラップしていた私です。
余呉の海(もう一度、あえて海と書かせて下さいね)は何度か訪ねました。いつもマイカーです。余呉湖(よごのうみ ですね)の湖周の細い道で対向車と出合って、お互い大変だったこともありました。
「余呉湖行楽」を読ませて頂き、もうあまり遠出はしなくなりましたが、元気なうちにもう一度余呉湖を訪ねたいと思います。作中・大音の源八所縁の「想古亭げんない」で、北近江の素朴な郷土料理を味わいながら「さく」を、水上さんを偲びたいと思いました。
今宵またkeiさんの感性にふれさせて頂きました。どうも有難うございました。どうぞ、フィードバックご不要にね。