京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

かかわったが故に起こる幸や不幸を

2024年11月05日 | 日々の暮らしの中で
昼から点訳の会合に参加した。
その折、よく一冊を分担して仕上げる3人ほどの気心が知れた仲間がいるのだが、「どうかな?」と名前を出された塔和子さんのことを私は深く知らずにいた。

名前はそう遠くない日に何かで触れている、という記憶だけを頼りに帰宅後、切り貼りしてあるノートのページをめくって目当ての記事を探し出した。

幸・不幸の積み重ねが醍醐味 〈人とかかわったことで起こる幸せや不幸を積み重ねて人は磨かれる。それこそが生きる醍醐味、豊かさなのだ。
塔和子さんの詩、「胸の泉に」はそう教えてくれる。〉

ジャーナリスト川名紀美さんが地元紙の連載コラム「ひとりで生きる みんなで生きる」の中で紹介されていたこの詩を、知ろうともせず後回しにしてしまっていたのだ。


塔和子さんは1929年に愛媛県で生まれ、11歳(と思われる)でハンセン病を発病し、13歳のとき国立療養所大島青松園に入所。1952年ごろに特効薬で病気は完治したという。それでも亡くなる2013年まで、70年にも及ぶ隔離生活を余儀なくされた。その間に多くの詩を書いた。

   胸の泉に

かかわらなければ
  この愛しさを知るすべはなかった
  この親しさは湧かなかった
  この大らかな依存の安らいは得られなかった
  この甘い思いや
  さびしい思いも知らなかった
人はかかわることからさまざまな思いを知る
  子は親とかかわり
  親は子とかかわることによって
  恋も友情も
  かかわることから始まって
かかわったが故に起こる
幸や不幸を
積み重ねて大きくなり
くり返すことで磨かれ
そして人は
人の間で思いを削り思いをふくらませ
生を綴る
ああ何億の人がいようとも
かかわらなければ路傍の人
  私の胸の泉に
  枯れ葉いちまいも
落としてはくれない

 〈人とかかわったことで起こる幸せや不幸を積み重ねて人は磨かれる。
    それこそが生きる醍醐味、豊かさなのだ〉


軽い言葉ははばかれるけれど、
ふと、中村久子さんの生涯が胸に浮かんできた。久子さんは歎異抄に救いを見いだされていた。

塔和子さんの詩集の点訳をしてみない?という誘い、ぜひ参加させてもらおう。

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ノートから (りりん)
2024-11-06 20:35:18
こんばんは

切り貼りされてるノートにはたくさんの言葉の宝物が認められてるのですね。
ケイ様の深く優しい洞察力はそこからも繋がってるですね。
「胸の泉に」
 じっくり読ませていただきました。
ほんとにそうです・・関わらなければ~そう思った事も何度か
でもそれが生きる醍醐味なのですね。 
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かかわってください (うばゆり3)
2024-11-06 21:13:09
こんばんは。

私がそんなことを言うのも変なんですけどね。
私もわずかですが、面倒なことに?ついかかわってしまうことはあります。

で、中村久子さんの本は読んでます。あのお身体で生き抜いて・・・もう、後につなぐ言葉が出ないです・・・
生きる醍醐味・・・までは行きませんが、ふか~く感謝が湧きあがる人生にはなりました。
返信する
かかわらなければ路傍の人  りりんさん (kei)
2024-11-06 21:20:37
こんばんは。
病を得て、生涯の大半を隔離された環境で生きなければならなかった境遇の中で紡ぎ出された言葉に触れて、
想像しつつ深い思いを少しでも感じ取りたいと…
私も何度も読み返しています。
先ずはそれが一歩になりましたが、もう少しこの方のことを知りたいなと思っているところです。

それにしましても、このような環境におかれて生きる希望や楽しみを見いだしていく塔和子さんの忍耐強さ。
「人が勝ち得た本当の知恵かもしれない」という言
葉が迫ってきます。
返信する
感謝が湧きあがる  ゆりさん (kei)
2024-11-06 21:43:09
こんばんは。
「深く感謝が湧き上がる人生」
であるか(あったか)どうか、日日問われてきますね。
人とかかわって生きているからこそなのですよね。
そうした一生を終えられたら、それはもうその人の人生は勝利ですよ(笑)  と思います。

両手足なき身でありながら文字を書き、裁縫もされ編み物もこなし、娘さんを育て上げましたね。
「人生に絶望なし
如何なる人生にも、決して絶望はない」、と。
さまざまな縁に導かれて72歳で亡くなりました。
生半可に根を上げてなどいられません、ね。
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いいこともわるいことも人生 (frozenrose)
2024-11-06 23:02:42
いいことも悪いことも、今の人生の糧。きょうは友達とそんな話をしました。
子育てを終わり、親も見送り、次は自分か夫か分からないけど、それまでの人生の凪のような時間を楽しみましょう。そう話しました。
塔和子さんは病名ですよね。名前さえ奪われた人生の到達点の、結晶のように美しい言葉が胸に染みました。
中村久子さんは浅学にして知りませんでした。これから勉強したいと思います。ありがとうございます。
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胸にしみ  frozenroseさん (kei)
2024-11-07 10:21:06
そうですね。
過去のすべてが自分の中に積み重なって、
そして今の自分があるのですものね。
微力ながらも自分にできる何かを社会に還元しつつ、日々楽しみたいと思います。

繰り返し読むうちに、言葉は身の内に落とし込まれるようです。
北条民雄の「いのちの初夜」を思いだしましたので、
文庫でこの表題作だけ読み返してみました。
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塔和子さん (Rei)
2024-11-07 18:39:13
詩人、ハンセン病元患者の方と知りました
この方はきっと壮絶な人生を送られたのでしょう。
葛藤もおありだったでしょう。
90年余、ぬるま湯の人生送ってきた私には
想像もできないことです。
そんななか、詩もお書きになり、尊敬に値する
生涯を終えられましたね。
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詩人  Reiさん (kei)
2024-11-07 20:15:23
病が進行していくことへの恐怖、生きることの恐怖、孤独、社会と隔絶された施設での暮らし…。
まだまだはじめの一歩で、他の詩を拝見してみたいと思っています。
「人は人の間で思いを削り思いをふくらませ
生を綴る」
さらっと通過してしまうのが惜しまれます。
繰り返し読んで、この詩をいただきますと、
自分を支えるものになる気がします。
どんな環境におかれても、人と人とのかかわりは生じるものですね。
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