帝釈天の妻 ・ 今昔物語 ( 5 - 30 )
今は昔、
舎脂夫人(シャシブニン)というのは、帝釈天の御妻である。毘摩質多羅阿修羅王(ビマシツタラアシュラオウ・須弥山の最深部にある阿修羅界の王とされる。)の娘である。
釈迦仏が未(イマ)だ現世に現れる以前に、一人の仙人がいた。名を提婆那延(ダイバナエン)という。帝釈天は常にこの仙人の所に行き、仏法(仏法というより、仙人の法術といったものと考えられる。)を習った。
すると、舎脂夫人は心の内で、「夫の帝釈天は、きっと仏法を習うだけではあるまい。夫には、必ず他に夫人(ブニン・夫人は正妻のことであるが、ここでは妾といった意味。)がいるに違いない」と思って、夫人は密かに帝釈天の後ろから隠れながらついて行ったが、夫は本当に仙人のもとに行った。
帝釈天は、夫人が密かに尾行していたのを知って、声を荒げて言った。「仙人の法は、女人にまみえず、女人の声を耳にしない、と教えている。さあ、さっさと帰るのだ」と。そして、蓮の茎で舎脂夫人を打った。
そうされて、舎脂夫人は安心したこともあって、甘えた声で夫とふざけた。
その時、仙人は舎脂夫人の艶やかな声を聞いて心が穢れたので、たちまちのうちに仙人としての神通力を失って、普通の男になってしまった。
されば、女人は仙人の神通力にとって大きな障りなのだ、
となむ語り伝へたるとや。
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