衣は取り違える ・ 今昔物語 ( 28 - 12 )
今は昔、
誰だとは、聞こえが悪いので書かないが、ある殿上人の妻のもとに評判の高い僧が忍んで通っていたが、夫の殿上人はそれを知らないで過ごしていた。
三月の二十日余りの頃、その夫は参内したが、その隙に僧はその家に入り込んで、僧衣を脱いで、我が物顔に[ 欠字あり。「ふるまう」といった意味の言葉か?]いたが、妻はその脱いだ僧衣を取って、夫の衣装を懸けている棹(サオ)に一緒に懸けておいた。
そのうち、夫は内裏から使いを寄こして、「内裏から人々と共に遊びに行くことになったので、烏帽子と狩衣を持って来させてくれ」と言ってきたので、妻は棹に懸けていた[ 欠字あり。「なよやか」といった言葉か?]な狩衣を取り、烏帽子に添えて袋に入れて使いに持たせた。
ところが、夫はすでに遊ぶ場所に他の公達たちと共に行ってしまっていたので、使いはそこへ持っていった。そこで袋を開いて見ると、烏帽子はあるが狩衣はなく、薄ねずみ色の衣を畳んで入れてあった。
「これは何だ」と夫はあきれていたが、「さては、間男がいて、そ奴の僧衣と間違えたのだな」と気づいた。殿上人たちが居並んで遊んでいる所なので、他の公達たちもこれを見てしまった。恥ずかしく情けない思いがしたが、どうすることも出来ず、衣を畳んだまま袋に入れて持って帰らせたが、こう書いて入れた。
『 ときはいかに きょうは うずきのひとひかは まだきもしつる ころもがへかな 』
( 今日はいつだったかな 四月一日(衣替えの日)はまだきていないのに 早々と衣替えをしたものだ )
と、[ 欠字あり。該当語不明。]書いてやって、そのまま家にも帰らず、夫婦の縁は切れてしまった。
女房が愚かで、狩衣を取って袋に入れたつもりが、暗い中で同じ棹に僧衣を懸けたため、あわてて取った時に同じような手触りの僧衣を狩衣と思って袋に入れてしまったのである。
妻は夫の手紙を見て、どれほど驚いたことだろう。しかし、もはやどうすることもできなかった。
隠そうとしていたが、自然にこの事は世間に知られることになり、この夫を「思慮があり、立派な人だ」と褒め称えた、
となむ語り伝へたるとや。
☆ ☆ ☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます