雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

キャットスマイル  ④ ボクの順位

2014-03-18 19:04:32 | キャットスマイル 微笑みをありがとう
          キャットスマイル
                 ④ ボクの順位

「チロ君、きみはだんだんいたずら坊主になってきたのね」
と、お姉さんはボクを抱き上げると、よくこう言う。
「これ、チロ! 最近いたずらが過ぎますよ」
と、お母さんも、時々ボクのことを叱りつける。
お姉さんもお母さんも、ボクの味方のはずだし、実際によくしてくれる。しかし、ボクが、チビやトラを脅していると、二人ともボクを叱りつける。口で注意するだけで、それ以上攻撃してくるようなことはないが、どうも、ボクだけの味方ではないらしい。
      * *
ボクはこの家の生活にすっかり慣れた。
寝る場所は、別に決められているわけではないが、三匹の寝場所は大体決まっている。トラは食卓の下が定位置で、チビは好き勝手な所で寝ているようだが、ソファーの上が一番多い。そしてボクは、お母さんが買ってくれた寝床をいつも使っている。
ボクは、この家に来てからでも体が大分大きくなったが、寝床は十分広く、ボクが大人になっても大丈夫なものである。ただ、相変わらずチビが大きな図体を押しこんでくるのが悩みの種である。

食卓のある部屋の窓側は広いテラスになっていて、トラは首輪をしてもらって綱に繋がれた状態でテラスによく出ている。トラが子供の頃からの習慣らしく、勝手に外へは出してくれないらしい。
ところが、チビの方は好き勝手にできるらしい。チビも子供の頃にこの家に来たが、野良だったのがいつの間にかこの家に居ついてしまったため、今も外出自由らしい。本当のところは、チビにも首輪をしようとしたらしいが、うまくいかなかったらしい。あれだけ大きな頭をしているのだから、首輪で繋ぐのは簡単だと思うのだが、実は、チビの首はあの大きな頭を支えるだけあって、とんでもなく太いのである。どこまでが頭なのか首なのかがよく分からず、首輪で繋ぐのをあきらめたらしい。

ボクに首輪をつけるかどうかも検討されたらしい。今のところはトラがテラスに出ている時はボクも出してもらえることになっている。
お母さんたちは、最初の頃は遠くへ行ってしまうことが心配だったらしいが、どうもボクには、外の世界には恐怖感があって、なかなか家から出ることが出来ないのである。テラスには段ボールの箱が置かれていて、その中にバスタオルが敷かれていて、トラなどはその中でうとうとしていることがよくある。
チビは相当遠くまで出かけていて、野良だか他家のネコだかとよく喧嘩をして帰ってくる。あの大きな頭に立ち向かっていくネコもいるらしくて、足とか耳などから血を流して帰ってくることも時々あった。そんな時でも、帰ってくると、トラが出ているかいないかに関わらず、テラスの段ボールで傷の手当てをするようである。ただ、お腹を空かせて帰って来た時にトラが室内に入る時は、テラスへのガラス戸は閉められているので、ガラス戸をガリガリやりながら「今帰ったぞ」とばかりに鳴き叫ぶのである。

ボクは、自分から外に出るようなことはほとんどないが、トラが出ている時は、お母さんが抱き上げてテラスに連れ出してくれる。ボクは余り出たくはないのだが、外の空気を吸わそうとしているらしい。
テラスでは、三つに増やされている段ボールのどれかに入るか、トラの体にぴったりと寄り添うかのどちらかである。家の中では、ほんのお愛想程度にしか舐めてくれないトラだが、どういうわけだかテラスでは親切に舐めてくれる。ボクもトラを舐めることもあるが、トラも結構気持ちが良いらしい。

テラスの先は芝生が少しあり、その先には花壇や植木などがあり、チビはそのあたりをうろついていることもあるが、大抵はどこか他所へ出掛けていることが多い。ボクも何度か芝生までは出て見るが、そこまではチビも出てくることが出来るので、ボクの後についてくる。そして、それ以上先へは行ってはいけないと忠告してくれているようだ。

このように、普通に生活をしている分には、今のボクには何の心配もない。
ただ、トラもチビもボクのことを子供だと侮っているらしいことが時々感じられるのだ。確かに今は、体が小さいし、トラにもチビにも勝てないかもしれない。しかし、いつまでも侮られているわけにはいかない。ボクの強さをトラにもチビにも教えていって、この家で、一番強い立場に昇って行かなくてはならないのだ。
そこで、ボクは、この家での現在の順位付けがどうなっているのか考えてみた。

まず、トラとチビの力関係である。これは、明らかにトラが上のようだ。年がトラの方が上だし、この家にやってきたのが先なので、二匹の間で順位付けは出来ているように見える。実際に戦ってみれば、あの大きな頭と図体の持ち主の巨大ネコであるチビは、トラに負けるとは思われない。
しかし、トラには、何といっても威厳がある。細いが、長い体は崇高でさえある。チビがトラにちょっかいをするようなことは全くないし、たまにチビがわがままな行動をしても、トラは全く意にも介さない。やはり、トラの方が上位にあることは間違いない。

この家には、ネコだけではなく、人間も四人いる。お母さんとお姉さん、それにお父さんとお兄さんだ。
人間の四人がどんな順位になっているのかも、ボクには重要なことだ。四人の順位もそうだし、ボクたちネコとの順位がどうかということもである。
ボクは、いつかはこの家で一番上に立たなければならないが、最初からある程度上位に位置していないことには、後から抜いて行くのは難しいからである。早いうちにボクの存在をしっかり印象付けておく必要があるのだ。
もちろん人間たち同士の順位付けがどうなっているのかは分かりにくいが、ボクにとってどうなのかということで考えれば、まず、お父さんは、どうってことはない。今でもボクより下のはずだ。それに、お兄さんも同じようなものだ。あまり接する機会はないが、ボクに害を加えるようなことはなく、時々不思議な話をしてくれるが、ボクより下にあることは間違いない。

問題はお母さんとお姉さんである。
お母さんは、いつもボクたちの食事を用意してくれるので、どうしても頭が上がらない。お姉さんはボクを最初に助けてくれた人なので、この人をやっつけることなど出来ない。
では、トラやチビはどうなのだろうか。
チビも、お母さんには勝てないようだ。何といってもチビは食いしん坊だから、食事の世話をしてくれるお母さんには勝てるはずがない。お姉さんに対しても、いつも甘えたような態度をしているから、お姉さんにも負けているはずだ。
トラはどうだろうか。お母さんもお姉さんも、トラをとても大切に扱っている感じだ。しかもトラは、お母さんに対しても、お姉さんに対しても、チビのように甘えた様子を見せることはない。いつも威厳に満ちている。

これらのことを考え合わせると、この家のトップにあるのは、トラらしい。そして、お母さん、お姉さんときて、その次がチビ、それからお兄さん、お父さんの順番らしい。
そうするとボクは、チビの前か後のあたりらしい。
まあ、まだボクは子供だし、この家に来て間もないから仕方がないとしても、とりあえずはトラとチビに対して、ボクの強さを示していく必要がある。

そこでボクは、椅子の陰などに隠れていて、通りかかったトラやチビや人間たちに飛びかかったり、前足でひっかいたりすることにした。
人間たちは全員がとても驚いていたので、それなりの効果があったはずだ。それに、チビは大げさすぎるほど大きな声で驚いている。何回してもである。しかし、トラには、ほとんど効果がないようだ。じろっと睨みつけるだけで、驚きもしなければ怒りもしない。トラの威厳は本物らしい。
     * *
そんな時のことである。
お姉さんが来た時にも椅子の陰から飛びついたのだが、お姉さんは驚きながらもボクを抱き上げようとしたのである。すると、ボクには、そんなつもりはなかったのだけれど、爪でお姉さんの掌を引き裂いてしまったのである。ボクの爪はまだ小さいけれど、それだけ薄くて鋭利なのだ。
お姉さんは悲鳴をあげてボクを投げ出しました。強く放り出されたわけではないので、ボクには痛みなどなかったけれど、お姉さんの悲鳴がショックだった。

掌の治療をしたお姉さんは、しょんぼりしているボクを抱き上げて言いました。
「チロ君。この頃いたずらが過ぎるわよ。優しい笑顔のチロちゃんは、みんなにもっと優しくしなければいけないわよ」
ボクは、とても悲しい気持ちになりました。もっと強くなり、みんなに勝てるようにするのは間違っているのだろうか・・・。

     * * *

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