雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

貿易戦争の勝者 ・ 小さな小さな物語 ( 1213 )

2019-12-08 15:30:15 | 小さな小さな物語 第二十一部

韓国との関係が厳しさを増してきました。
日本政府が韓国向け輸出製品のうち半導体の3つの素材について手続きを厳格化するとしたことで、両国間の軋轢は一気に表面化した感じです。
しかし、最近の両国間は、文化面を中心とした国民レベルの関係はともかく、政府間の交渉事は、私たち国民レベルから見てもギクシャクしていて、何事もなく関係が続いて行くと考える方が暢気すぎるといえましょう。

今回の処置を、日本政府は、「安全保障上の問題があって、輸出に関する手続き簡素化を認める国(ホワイト国)を一般国に戻すだけのことだ」としているのに対して、韓国側は、「元徴用工問題に対する報復処置だ」とし、政治問題(歴史認識問題)を貿易面で報復するのは容認できない、対抗措置を検討する、と不満を示しています。
公的な両国の主張は違うように見えていても、両政権とも、その原因となっている現象は十分認識した上での事と考えられます。
おそらく、わが国の政権側とすれば、「過去の約束事が次々と踏みにじられ、やられっぱなしをいつまでも耐え忍ぶわけにはいかない」と決断したのだと推定でき、韓国側とすれば、「歴史認識をいつになったら改めるのか。元徴用工問題などでぐずぐず言うな」という気持ちがあるのかな、と推定できます。
わが国政権としては、国連制裁などを除けば、おそらく初めてといえるような実質的な輸出条件の変更に動いた以上は、そうそう簡単に拳を下ろすわけにはいかないでしょうから、少なくともホワイト国からの削除までは行くことでしょう。
韓国側も対抗処置を取ると表明していますし、市民ベースとはいえ、すでに「貿易戦争だ」との声が出ています。

戦争という言葉が適切かどうか分かりませんが、争いを「戦争」と表現するのであれば、しばらくはその状況を覚悟する必要があります。つまり、戦争は、常に両者に少なからぬ痛みを与えるものなのですから。
「米中の貿易戦争」に比べるとはるかにスケールは小さいとはいえ、不買運動や、旅行者の減少、両国間の貿易額の激減、さらには、市民レベルの交流にまで悪影響が出るかもしれません。
それらを覚悟する必要があるのですが、早くも、「貿易制限はけしからん、即座に取り消せ」という声も国内から出てきています。そうした意見の中に、「両国間の貿易は、遥かにわが国の輸出超なので損するのはわが国だ」と言うのがありますが、どうも、貿易というものが正しく理解されていないような気がしてなりません。
米中の貿易アンバランスについても同様ですが、「ルール上の不公平」は別にすれば、貿易は、物(技術やサービスなどを含む)を売って、お金(代用となる物を含む)を受け取ることで成り立っているのであって、タダでお金が流出したり流入しているわけではないのです。
今回対象となっている3製品について、自国生産や別の国から輸入されて市場を失うことになる、という懸念も示されています。その通りでしょう。しかし、そんなことが簡単にできるのであれば、この3製品も大した物ではなく、若干時間が早まるとしても、やがてはその運命にある製品と言えるのではないでしょうか。

若干話がくどくなりましたが、そもそも貿易とは、両国間にそれなりの利益があるから成立しているはずなのです。需要あるいは供給の問題ではなく、強制的な力によって貿易量を縮小させれば、間違いなく両者が傷つき損失を蒙るものなのです。
貿易戦争に本当の勝者など存在するものなのでしょうか。するとすれば、当時者のどちらかなのでしょうか、それとも別の第三国なのでしょうか。
今回の日本と韓国の問題は、おそらく、簡単に収束しない予感がするのですが、両国は隣国同士であり、厭でも位置を変化させることが出来ないのです。
どこかに、時の氏神はいませんかねぇ・・・。

( 2019.07.08 )


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