機知に富んだ女 ・ 今昔物語 ( 28 - 14 )
今は昔、
朱雀天皇の御代に、仁浄(ニンジョウ・伝不詳)という御導師(ドウシ・儀式の主導を行う僧。)がいた。
たいそうな説教上手であった。また、口達者で、多くの殿上人や公達たちと、しゃれなど言い合って、遊び相手でもあった。
その人が、御仏名(オンブツミョウ・仏名会。法会の一つ。)に参内したところ、藤壺の口(藤壺(飛香舎)から清涼殿への通路の出口。)に八重という召使いの女が立っていた。檜扇で顔を隠しているのを見て、仁浄が「厠に桧垣を廻らしたりして。賤しい者だって越えてきませんよ」とからかって通り過ぎようとすると、召使いの女は、「尻尾を剃った犬を入れないためですよ(尻尾を剃ったは、頭を剃った僧を指している。)」と言い返したではないか。
仁浄は殿上に上って、殿上人たちに会って、「手厳しく、八重にやり込められましたよ」と話すと、殿上人たちはそれを聞いて、たいそう八重を褒め称えた。仁浄も面白がって感心した。
それより後、八重に対する人々のおぼえが高まり、宮様方もたいそう褒め称えた。
仁浄はもとより知られた口達者であるが、それに八重がこのように言い返したことは、小憎らしくもすばらしいことである。
昔は、女であっても、このように機知に富んだやり取りが出来る者もいたので、世間の人も面白がった、
となむ語り伝へたるとや。
☆ ☆ ☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます