いろいろ体験したがるけれど、「ああ、楽しかった」で終わってしまう 3
の記事の最後に、
インプットとアウトプットが大きくずれるような子ではないけれど、
アウトプットするものの質が、外からの目ですぐわかるような価値でないため、
<いろいろ体験したがるけれど、「ああ、楽しかった」で終わってしまう子>として
見られる面があるDちゃんという子について取り上げています。
「アウトプットするものの質が、外からの目ですぐわかるような価値でない」
という子は、とても多いのではないかな、と思います。
親が何に価値を置くか、環境が何を評価するかとも大きくかかわってきます。
みなでお泊りする場に行くと、作った後で、
店開きして遊べるカフェ用の食べ物や飲み物作りというのは、
魅力的な工作です。
でも、同じようにせっせケーキやジュースを作っていても、
子どもによって作るものや作り方は異なります。
ひたすらデコレーションに励んで、おいしそうで見栄えのいいケーキや飲み物を作る子もいれば、
2段ベッド同士を食べ物が移動するレーンにする仕掛けに走る子もいれば、
展開図を描いて、三角柱や円柱のケーキを作る子もいます。ちらしや看板作りに忙しい子もいます。
かじった後の凹んだ形がどのようになるのか、そこに着目する子もいます。モーターを使って
わたがしマシーンなどを作る子もいます。
集団で自由に工作をする場は、そうしたさまざまなアイデアや可能性を
目で見て取り込む機会でもあります。
Dちゃんは最初、ガチャガチャの半球に穴を開けて、ストローを通して、
ふたつきのドリンクを作りたがっていました。
が、この半球はけっこう硬くて、熱で溶かすのでなければ、おそらく穴を開ける時点で
ひび割れるだろうと思われました。
それで、穴を開ける方法についてあれこれ相談した結果、穴そのものは開けず、
上からと下から、それぞれ別のストローを接着して作るのがいいのではないか、
という「ちょっとめんどくさい展開」になりました。
「誰もやったことがない未知のことである」と「ちょっとめんどくさい展開」になると、
たいていの子はあきらめるか、もっと安易はやり方(ふたをなくす)などに
流れます。
でも、このDちゃんは、必ずといっていいほど、
そうした困難さや難しさが伴う課題を選びます。
教室では、透明のフィルムを動かして見るのぞき眼鏡とか、複雑なポップアップ絵本の仕組みなどに
チャレンジしていました。
そうした課題も、実際やってみたら、簡単だったということもたまにあります。
でもたいてい、途中でどうやってもうまくいかず、長い間試行錯誤して
あまりパッとしない結果につながるんです。
エネルギーのほとんどが、きれいに仕上げることではなく、
はじめてだからうまくいかなくて、失敗してやりなおしたり、
どうやったらいいか考えたりする時間に費やされますから。
このDちゃんという子の魅力は、作業をメタな視点で眺めて、統合したり発展したり
する考え方につながるところで、
できあがったものが何かということより、
気づいたことは何かというところに価値があります。
たとえば、コップの周りにレースのリボンを貼り付けるとしたら、
長さはどれくらいか、どうやったら求まるかといったことに、
体験すれば関心が高まり、少し教えれば理解して納得します。
自分自身で、さまざまなことに気づきもします。
そうした活動を通して、頭の中の世界を変化させていく子たちは、
見えている世界ではそれほど目立つことをしない場合も多いです。
ひとりひとりの子の個性にていねいに接する大切さを思います。