「歳序雑話」という古い記録がある。熊本の歳時記ともいうべきものだが、六月の項の「祇園会」を抜粋してみた。
原文は白文であるが、これが掲載されている「日本都市生活史料集成3ー城下町篇1」では「レ点や一二、送りカナ」が振られている。
それでも中々読むのに難儀するが、チャレンジしてみた。
(六月)十四日は祇園会也、七日より十三日に至ル、社頭ニ詣デ尊卑於道路ニ支(わか)ルコト竹葦ノ如ク稲麻ニ似タリ、
一駄橋ノ前後、社壇ニ及マデ茶店ヲ構エ、仮屋ヲ飾リ種々ノ売買ノ珍異、玩弄ノ具物、酒肴ヲ置時果ヲ備エ、来往ノ求ヲ
俟ツ、又道ノ傍ノ乞食人、声々ニ一銭ヲ求ム、是國初ヨリ河原ノ地ヲ卜(ボク)シ、曾テ世ノ交リ無シ、故ニ寛仁ノ世ニ
至テモ猶斯ノ如ク乎、往反朝ヨリ暮ニ至リ、暮ヨリ明ニ達ス、夜々月光明々、水色清々、涼風袖ヲ翻ス、故ニ遊舟ニ棹シ、
坪井ノ流ヲ降リル、一駄橋ノ下ニ至リ、棹ヲ閣(お)キテ往還ノ行粧ヲ見レバ、多々舟中酒ヲ置キ、吟風弄月楽ヲ以テ尽
ス、亦女童ノ商売ノ遊船傍ニ有リ、倡瞽(しょうこ)ハ淫楽ノ器ヲ鳴シ、淫風ノ歌ヲ謳ウ、種々其ノ求ムルハ一種ニ非ザ
ル也、陸者ハ舟中ヲ窺ヒ、舟者ハ陸路ヲ仰グ、述ベキ情患耳ヲ忘ル、
祭日ハ両座ニ於テ申楽ノ能ヲ興行ス、舞台上下ノ桟敷、芝居ノ結構、巨細毫ヲ以テシ難シ、六曹ノ一人上ニ代リテ至リ見
ル焉士長群臣列ヲ曳キ席ニ著ス、臘次ヲ敢テ乱サズ、其式御所ノ体ト異ル莫シ、楽七番ヲ以テ限ト為ス
難しい熟語があり解しがたいが、喧噪の中の祭りの様子が見事に白文の中に凝縮されている。
ざわめきの中に人々の笑顔が見えるようである。
かっての祇園社、現在の北岡神社では6月30日「夏越の大祓」の茅の輪くぐりが催される。むかしの賑わいを取り戻したいものだ。