Sightsong

自縄自縛日記

歌舞伎町の「ナルシス」、「いまはどこにも住んでいないの」

2007-05-14 23:38:03 | アヴァンギャルド・ジャズ
新宿歌舞伎町、コマ劇場の近く、めっきり呼び込みが少なくなったが依然猥雑なところに、バー「ナルシス」がある。開店時間がだんだんルーズになってきて、いまでは夕方5時から、それでも5時ピッタリには開いていないこともしばしばだ。

フリージャズが大好きなママ、川島さんがいる。と言うと、「普通のジャズもかけるのよ」と怒られるが。

新宿界隈では、ゴールデン街の「シラムレン」と並んで、ジャズの趣味が嬉しく偏っている。しかし、「シラムレン」には、いちど終電を逃して朝まで居たことしかないので、よくは知らない。

先日の週末、新宿で仕事が終わったので、「ナルシス」に立ち寄った。
実に珍しく6人くらいのお客さんが居て、これもまた珍しくオーソドックスなアート・ファーマーの『ブルースをそっと歌って』がかけられていた。そのあと川島さんは何のつもりだろう、アーチー・シェップとダラー・ブランドのデュオで「人間の証明のテーマ」。

それから、初めて聴く歌声。尋ねると、ロバータ・フラックの『やさしく歌って』。いま気がついたが、アート・ファーマーのアルバム名からの連想だったのだろうか。気に入ったので、ジャズ色の強いデビュー作『ファースト・テイク』をかけてもらった。ジャズ以外あまり知らなかったのだが、とてもいい声だ。妻にも教えてもらい、さっそく買って聴いている。

「ナルシス」の壁には、田村隆一の色紙が飾ってある。
川島さんは、「ナルシス」を始めたお母さんのところに、田村隆一氏が色紙を風呂敷に包んで持ってきたのを覚えているそうだ。

いまは
 どこにも
  住んでいないの
          隆一


詩集『5分前』の、「港のマリー」という詩の一節だ。港のマリーは横浜に居た白いドレスに白い化粧の娼婦、『ヨコハマメリー』という映画にもなっているらしい。

「いまはどこにも住んでいないの」
それはマリーだけの話ではない
先進工業国の人間ならみんなそうじゃないか
平和は「未来」の危機の情報源と恐怖の薬物にすぎない
戦争とテロと内戦だけが平和におびえる心を麻痺させてくれるだけだ
人類そのものがボート・ピープルなのだから
やっと陸地にたどりついてみたら
港のマリー
無数の氷河


(田村隆一「港のマリー」(部分)、『続続・田村隆一詩集』(思潮社)所収)



ナルシスでは、何度もフリージャズのソロライブを聴いた。

チャールズ・ゲイルの初来日(97年)は、ギュウギュウで、膝の皿が割れそうだった。そこで目撃したテナーサックスは、CDにもなった。

バール・フィリップスのベースは、50センチも離れていなかったので、弓で弾くときにはしばしばスウェーして避けなければならなかった。

ロル・コクスヒルのサックスも楽しかった。

最近はあまりライブをやっていないみたいだ。川島さんは、だって来ないから・・・と言った。実際、最近は即興演奏家が来日することが少ないような気がする。元もとれないかもしれないしなあ。


ロバータ・フラック『ファースト・テイク』 ホーンセクションが凄くカッコいい


チャールズ・ゲイル『ソロ・イン・ジャパン』 ジャケット裏には歌舞伎町で佇むゲイルの姿がある


バール・フィリップス、ナルシス(98年頃?) Pentax MZ-3、FA 28mm/f2.8、プロビア400、ダイレクトプリント


川島さんのお母さんの追悼記事(朝日新聞2001/8/27) 探したらとってあった