『Number』(文藝春秋)が、「野茂英雄のすべて。」と題した特集を組んでいる。
「永久保存版」と大上段に構えているだけあって、これまでのタブー的な領域に踏み込んだ記事が多い。具体的には、大リーグ移籍時のバッシングと、その布石となった近鉄バファローズ鈴木監督との確執だ。
バッシングについては、その後手のひらを返したような反応を見せたメディアと野球界が、如何にネガティブ・キャンペーンを張ったかが手短に検証してある。その底には、多くの日本人が大事にしてきた日本野球が傷つけられることへの過剰な反応がありそうだ。
大リーグで活動することにより「日本野球の実力を白日のもとに晒してしまうことへの恐怖」は、幸福な形で解消されている。ただ、野茂をパイオニアとして日本野球と大リーグとの障壁が小さくなったいまでは、そのメンタリティは、WBCや五輪への過剰な反応にあらわれてきている。もちろんそれは、ナショナリズムとの危ういバランスのうえに成り立っているものの、決して悪いことではない。じつは私も一喜一憂している。
立花龍司コーチ、鈴木啓二元監督、野茂の前のエース・阿波野の野茂に対する印象が同じ特集内に掲載されるのは、「あれ」から長い時間が経ったことを示すものだろう。その意味で、「井戸の蛙」タブーを皆が正視できるようになったと言うこともできそうである。
しかし、さらに問題の根っこにある、日本のプロ球団が選手を縛り続け、人権を軽視していることについては、対談の発言という形でしか示されていない。ここが、「井戸の蛙」タブーの次のタブーなのだろうとおもえる。
ところで、野茂を実際に見たのは、川崎球場でのロッテオリオンズとの試合前に外野でストレッチをしている姿だけだ。もっと見ておけばよかったと後悔する。
●参考 野茂英雄の2冊の手記