Sightsong

自縄自縛日記

ラオスの風景とミステリ コリン・コッタリル『老検死官シリ先生がゆく』

2008-10-28 01:02:20 | 東南アジア

ラオスを舞台にした珍しいミステリだというので、コリン・コッタリル『老検死官シリ先生がゆく』(ヴィレッジブックス、2008年)を手に取った。原題は『検死官の昼食』であり、表紙にあるようにメコン川沿いに腰掛けてパンやサンドイッチを齧るシーンが多く出てくる。そこで、主人公のシリ先生は、親友の政府高官とお互いに冗談を言ったり毒づいたりしながら、情報交換しているという設定である。ついこの間訪れたラオス・メコン川の都会擦れしていない風景と重ね合わせて読んだ。

メコン河畔だけではない。田舎のヴィエンチャンならではの描写が面白い。小説の設定は70年代だが、次のような冗談はいまでも通用しそうだ。何しろ、自動車のタクシーがほとんど見当たらないのだから。

「もちろんその冗談は、目下ヴィエンチャン政府が七個目の交通信号を設置するかどうか、誰がそれを操作するのか議論していることをネタにしたものだった。交通量からすれば、そのような多額の投資の理由にならないが、政府は信号が数ないというイメージが諸外国に与える印象を心配していた。交通省は全世界の首都のなかでヴィエンチャンより信号が少ないのは、ブルンジ共和国のブジェンブラだけだという報告書を受けとっていた。」

ラオスの状景のほかに読みどころはたくさんある。共産党政府の腐敗、米国の介入、ヴェトナムとの関係、先住民モン族への弾圧・差別などが、ストーリーの重要な部分を形作っていて、謎が姿を見せてくる後半などは本が手放せなくなる。飄々としたシリ先生が、夢うつつの状態で、亡くなったひとと話ができる能力をもつという設定も、非現実的で却っておもしろい。

第2作は邦訳未定だそうだが、ぜひ読みたい。