実はほとんど演劇を観たことがないし、戯曲もたいして読んでいない。しかし、『東京新聞』の書評欄にあったので読んでみた、坂手洋二『海の沸点/沖縄ミルクプラントの最后/ピカドン・キジムナー』(早川書房、2008年)は、演劇という空間でこそ伝えられるアウラがあることを感じさせてくれるものだった。
『海の沸点』は、実名の知花昌一氏を主人公として、日の丸焼き打ちやそれに続く平和の像破壊などを描いている。モヤモヤして鬱積したものが、<間>のようなものとともに迫ってくる。そして、「集団自決」の体験者たちの、語られなかった歴史が噴出し、交錯する。状況や事実を整理してまとめた情報では伝えきれないことが、ここでは実現しているように感じられる。
『沖縄ミルクプラントの最后』では、米軍基地の中で働くことの矛盾した気持ちが描かれる。『ピカドン・キジムナー』では、広島で被爆した後に沖縄に戻った被害者や、在日朝鮮人たちの受苦が、ややセンチメンタルに描かれる。
良い作品集だとおもう。上演があれば観たいものだ。
「タカコ 彼は言いました。刀を持っていると誰かを切りたくなる。三線を持っていると歌を歌いたくなる。刀と三線と、どちらが強いのか・・・・・・。
ショウイチ ・・・・・・ヤマトンチューは結論を急ぎすぎる。
タカコ ・・・・・・。
ショウイチ ・・・・・・しばらくそこにいてくれ。君は三線を選んだ。俺もそれに倣おう。・・・・・・君のやり方を教えていってくれ。」
(『海の沸点』より)