ジャズ評論の岡島豊樹さんが、「チェコ・ジャズ入門」という講演をされるというので、チェコ大使館のチェコセンター東京に足を運んだ。当方の知識はほとんど皆無に近い。岡島さんは、どこで見つけたのと笑っていた。パワーポイントで説明しながら音源を聴かせる形。
1968年のプラハの春とソ連の軍事介入以降、1989年のビロード革命まで、チェコにおいては東側の共産党政権が支配していた。しかし、独自のジャズは生き続けていた。
イジー・スチヴィーン フルート、サックス、リコーダー。演奏技術のレベルはかなり高い。正統的なフルート・ソロを聴かせるかと思えば、曲によっては脱線しまくる。
エミル・ヴィクリツキー ピアノ。ボヘミアがビールを好み、音楽にはハーモニーを求めるのに対し、モラヴィアはワインと古代旋法だと言ったとか。ジョージ・ムラーツ(この人もチェコ出身)のアルバムで演奏している「ポプラの葉」や、イヴァ・ビトヴァのヴォイスと共演する「あの山を越え森を越えて」はモラヴィア民謡であり、哀しく、魅力的。
カレル・ヴェレブニー ヴィブラフォン、サックス、ピアノなど。人形劇に音楽をつけた「神経症の犬と歩けば」、「マリアム」は、キーワード「ミスター創意工夫」とあるように、何やってるのと笑いたくなるくらい色々ぶち込んでいる印象だ。『SHQ』(ESP、1968年)は、盤の存在は知っていたものの、あまりにもジャケットが禍々しいので手を出さなかった。スチヴィーンのアルトサックス・ソロ、ヴェレブニーのテナーサックス・ソロと続き、これも面白い。プラハの春、ソ連介入前の時期であり、米国ESPレーベルに売り込んで出したとはいえ、こんなふざけたジャケットの作品を出すことが愉快だと捉えるべきだった。なお、ヴェレブニーはビロード革命を目前にして、1989年に亡くなっている。
ESPのカタログだけは大事に取っている
ところで、チェコにおいて著書がすべて発禁となりフランスに逃れた作家ミラン・クンデラは、『冗談』(1967年)の中で、ジャズやモラヴィア民謡に関する解説を行っている。自分もジャズ・ファンのつもり、クンデラの少しファンのつもりだったが、まったく覚えていなかった(笑)。もう1回読む動機ができた。
●参照
○ミラン・クンデラ『不滅』
○エルヴィン・ジョーンズ+ヤン・ハマー(この人もチェコ人だった)