Sightsong

自縄自縛日記

増子満『素敵な昆虫の世界』、科学映像館の『アリの世界』と『地蜂』

2009-11-23 23:00:01 | 環境・自然

古書で何気なく手に取った、増子満『素敵な昆虫の世界』(新風社、2005年)。素敵と感じるかどうかは昆虫への愛情次第だが、たしかに驚嘆の社会だ。自分のように虫というものが得意でない人間にとっては、小さなパラレルワールドを見つけ、執拗、丹念に検証する視線そのものが驚きでもある。

昆虫は多様性こそが華だから、この本の記述もあっちへ行ったりこっちへ行ったり、まあ、好きなんだろうなというところだ。最初は、都会では見かけないミノムシ(以前、西葛西駅前の街路樹からぶら下がっているのを見つけたときは妙に嬉しかったのだが、ミノガという蛾が正体だと知れば、ちょっと敬遠したくなる)。この中には、死ぬまで外界を知ることのない雌が住んでいる。役割は繁殖なのだが、なんと雄の蛾は、フェロモンにつられて蓑の下にくっつき、相手を知ることなく交尾するのである(アクロバティックな・・・)。

については、スズメバチも、小さな種類も紹介されている。ハキリバチというのは、文字通り、苺の葉っぱをちょきちょき切って、竹の中に巣をつくる変った習性を持っている。以前、チョッキリオトシブミの存在を知ったときにも驚いたが、蜂にもこんな器用な奴がいるのだ。

クリタマバチは栗の樹に寄生する蜂で、やはり初めて聞いた話だが、雌しか存在せず、未受精卵を突然孵化させてクローンを産み続ける(どういうこと?)。しかしクリタマバチにも天敵コマユバチという寄生バチがいて、クリタマバチの幼虫に卵を付着させ、栄養を吸い取って自分が幼虫になってしまう。『スペースバンパイア』というしょうもない映画があったが、まさにそれだ。しかも連続写真で紹介されている(ううう・・・)。

本書で半分以上のスペースを割いているのが、アブラムシの生態である。本当に弱い虫で、蟻や蜂や蜘蛛や虻やてんとう虫に尻から出す甘い汁を提供するためだけに生きているような感じだ。蟻はアブラムシから甘露をもらうため、他の動物から保護していると言われてきた。しかし、それだけでもないらしく、アブラムシの身体そのもの(タンパク質)を求めることもあって、生かしておくか、食べてしまうか、決死の判断を下す局面があるのだという。生きるための知恵は虻にもあって、自分が将来飢えないため、アブラムシの母には手を出さず、第二世代の幼虫を襲ったりする。こうなると、知恵とか習性とかいうより、「業」という言葉を思い浮かべてしまうね。

過去の科学映画のアーカイヴを公開している科学映像館にも、昆虫ものがいくつもある。かなり古い記録だから、里山の自然も登場して気持ちがいい。また今のように撮影素子が小さいために焦点距離も短いわけではないから、被写界深度が極めて浅い。徹底的にあられもないほどに動物の生態を暴き出してしまうNHKの科学番組とは全く異なる世界だ(それが悪いとは言わないが)。

『アリの世界』(学研、1950~60年代?)は、クロオオアリの生態を追った短編である。庭の足元で不思議な組織行動を取る蟻というもの、昔からミニ社会を見いだされてきた。ここでは、オスアリが巣から出かけるとき、何か外界に異変があると、働きアリが必死に巣に押し戻す姿が捉えられている。働きアリはやっぱり大変で、生まれたら数時間後には働きはじめ、食べ物を探してこなければならないし、繭や蛹の薄皮を破る手伝いもする。そして、先の本によれば、天性労働のできないサムライアリは弱いクロヤマアリの繭を奪い取り、そこから生まれる蟻たちを奴隷として働かせるのである。

アリと共生するアブラムシだが、ここでは、アリマキという名前で紹介されている。映像で、アリマキに群がって甘露を舐める蟻は哀れに見える。だからこそ人間的にも見える・・・ナンチャッテ。

『アリの世界』 >> リンク

『地蜂』(十字屋、1936年頃)は、地中に巣をつくる肉食系の蜂を紹介している。長野・八ヶ岳の麓、十月だ。ここで見せてくれるのは、「地蜂狩り」という風習(いまでもあるのだろうか?)。蛙の肉をぶら下げておき、蜂が来たり飛び去ったりする方向や時間を見定める。子どもたちがしゃがんで見つめている。そして蜂に白い綿毛を目印として付けて、あとは帰巣時に追いかけるのみ。蜂が土の穴に入り込んだら、煙を吹き込んで活動を鈍らせる。そして、みんなで周りの土を掘り返して、巣の上を蓋のようによいしょと持ち上げるわけである。

ハニカムに住む、大量の蜂の子・・・これらを佃煮にしたり、蜂の子飯を炊いたりする。もう何年も前に、お土産の蜂の子を食べたことがあるが、血の気が逆上するようで強烈だった。

『地蜂』 >> リンク

何だか気持ちが悪くなってきた。生まれ変わっても、昆虫学者になる素質は私にはあるまい。かと言って、働きアリにも、ミノムシの雌にも、アブラムシにもなりたくはない。

●昆虫
昆虫の写真展 オトシブミやチョッキリの器用な工作、アキアカネの産卵、昆虫の北上

●科学映像館のおすすめ映像
『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(カワウ)
『花ひらく日本万国博』(大阪万博)
アカテガニの生態を描いた短編『カニの誕生』
『かえるの話』(ヒキガエル、アカガエル、モリアオガエル)