Sightsong

自縄自縛日記

インドジヒ・ポラーク『イカリエ号XB1』

2009-11-25 23:56:05 | ヨーロッパ

名古屋から戻り、その足でチェコ大使館・チェコセンターに行き、『イカリエ号XB1』(インドジヒ・ポラーク、1963年)を観る。イラストはカラーだが、本編は白黒(英語字幕)である。

チェコスロバキア(当時)初のSF映画だが、原作はポーランドのスタニスワフ・レム『マゼラン星雲』(1956年)。あの『ソラリス』を書く5年前だ。調べてみると、当時の社会主義政権下にあって検閲や削除もあった曰く付きの作品で、邦訳はいまだなされていない。

上映の前に、大使館員が興味深い話をふたつしてくれた。まず、『スタートレック』は、この映画のセットをかなり参考にしていること(確かに、永遠の未来感覚がある)。それから、ソ連(当時)に、宇宙服のデザインのため参考資料の提供を求めたところ、大きな箱が腹に付いた写真が届いたという話。西側に技術が漏れてはいけないので、変に隠されていたわけである。既に1961年、ガガーリンは有人宇宙飛行を行っていた。

22世紀。宇宙船イカリエ号XB1は、新たな殖民地を求めてアルファ・ケンタウリへと旅立つ。宇宙船の中では、クルーたちは楽しく過ごしているものの、地球を離れるためか不安は隠せない。途中で、別の宇宙船に遭遇する。中を探索してみると、20世紀の地球から飛び立ったと思しきもの、だが全員が死んでいた。どうやら生き延びるために致死性のガスで殺し合いをした結果なのだった。さらに、核兵器が搭載してあるのを発見するが、誤って爆発し、探索していたクルーは宇宙の屑と消える。イカリエ号のクルーは目を覆い、ヒロシマの時代だと呟く。

しばらく先に、「ダークスター」なる暗黒物質が見えてくる。実はそこから何かが放出されており、クルーたちは苦しみながら眠りに落ちる。引き返してはならない、勇気を持つのだと呻きながら。目が覚めてみると、白い惑星が見えてきた。どうやら、その文明が「ダークスター」の放射を阻止してくれたようだった。そして、人類はじめて、宇宙で赤子が生まれる。赤子が見つめるなか、惑星の大気圏に突入すると、雲の切れ目から文明らしきものが見えてくるのだった。

未来派的な先鋭なセンスは今観ても格好良い。一方、特撮はあまりにもお粗末で、「ピロ~」という甲高い電子音とともに宇宙空間をよろよろ進むイカリエ号が出てくるたびに脱力する。

映画全体を覆う内省的な雰囲気は悪くない。しかし、明るい宇宙開発の未来を示すような終わり方は如何にもプロパガンダ的だ。レムの作品は読むことができないが、こんなものではない気がする。むしろ、「宇宙に出たところで、もう人間に新たな発見などない」と呟くクルー。地球が存在しなくなったと半狂乱に陥り自滅するクルー。こんなものが、レム的に感じられた。勿論、当時の政権下でそのような暗いメッセージを提示する映画は許可されなかったに違いない。