新宿ピットインを擁するピットイン・ミュージックが、2009年より自身のレーベルでCDを発表している。池田篤『Here We Are』(ピットイン、2009年)はその2枚目。
辛島文雄(ピアノ)、岡崎好朗(トランペット)を含めたクインテットの編成。池田篤はアルトサックスとテナーサックスを吹いている。新宿ピットインでのライヴ演奏であり、スタンダード中心である。
実はこの人は、ライヴでの圧倒的なパフォーマンスの割にCDが少ない。10年以上前、どこだったかで、サム・リヴァースの「Beatrice」をバリバリ吹くのを観て驚き、録音を探したがほとんど見当たらなかった。唯一、デビュー盤『Everybody's Music』(King Records、1996年)があったが、大人しい印象で、ライヴとの落差が大きかった。そんなわけで、この盤は私にとって待望のCDでもあるのだ。
サックスの音はちょっとダークで官能的、「鳴らす」音である。インプロヴィゼーションも凄い。選曲やサイドメンを含め、あまりにも生真面目で、はみ出す刺激が欲しいところではあるが、この音があれば文句は言わないことにする。ここまでサックスが吹ければ怖いものはないだろうね。
随分前に、やはり新宿ピットインでチャールス・マクファーソン(アルトサックス)が吹いたとき、最前列でマクファーソンのプレイを観察する池田篤の姿を見たことがある。マクファーソンもストレート・ジャズの枠内でコード進行に沿ったインプロヴィゼーションに賭ける人であり、似ているのかなと思った記憶がある。
ついでに、棚からチャールス・マクファーソン『Beautiful!』(ザナドゥ、1975年)のLPを取り出して聴いてみる。デューク・ジョーダン(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)ら渋いサイドメン、朗々と鳴るアルト、スタンダード曲中心の選曲など共通点は多い。素晴らしいのだけれど、やはり生真面目に過ぎて、聴き終わったらすぐに棚に戻す。私にとっては、『Here We Are』はもっと魅力的な盤である。
『Here We Are』では、「Orange Was The Color Of Her Dress, Then Blue Silk」と「Peggy's Blus Skylight」の2曲、チャールス・ミンガスの曲を演奏している。この組み合わせで思い出すのは、大西順子『Piano Quintet Suite』(Somethin' Else、1995年)である。
90年代前半に、大規模な宣伝とともに登場してきたピアニストであり、事実、その演奏はとても個性的で良く聴いた。アクが強くて聴き厭きてしまったのか、ピアノ・トリオ盤はすべて手放してしまった。しかし、この盤は好きでいまだに聴き続けている。何しろ林栄一(アルトサックス)やトニー・ラベソン(ドラムス)の音が尖っていて、さらにマーカス・ベルグレイヴ(トランペット)が重鎮として存在感を示している。
(ベルグレイヴについては、この盤と、池田篤のデビューアルバムに参加しているという程度の認識だったのだが、実は、滅茶苦茶にファンキーなリーダー作を出していることに気がついたのは、つい最近のことだ。)
一時期の流行のように捉えられるアルバムではない。