出かけたついでに銀座ニコンサロンに足を運び、オサム・ジェームス・中川の写真展『BANTA -沁みついた記憶-』を観る。『LP』の平敷兼七追悼号に寄せられた氏の文章が印象的だったからだ。『日本カメラ』最新号にもこの作品群が掲載されており、異形の崖という被写体に興味もあった。
ギャラリーに足を踏み入れて1枚目を観た途端、眼が崖の下にギュウッと落ちた。吸い込まれたとか惹きつけられたとかではなく、本当に眼球が落ちた。かなり吃驚した。
おそらくは全て、沖縄南部の崖である。虐殺と自死の記憶が「沁みついた」スポットに違いない場。崖の琉球石灰岩や、その上にこびりつく植物群から、眼が離せなくなる。リアルという言葉を超えたリアルさと言おうか。
どうやらキヤノン5Dに望遠系のレンズで撮られたデジタルデータを何枚も「明るい暗室」でつなぎ合わせ、加工したもののようだ。もちろん解像度が凄まじいのはハードの寄与ではあるが、大判フィルムと比べて遜色ないといった次元の評価は相応しくないだろう。望遠系のレンズでスキャンするように撮られた複数の視野が、同時に存在していることの恐ろしさである。観る者は、あまりにもリアルな崖を、やはりスキャンするように彷徨うことになる。それは落下を意味する。従って、本当に眼球が落ちる。
ギャラリーの一角には、中判のスクエアで撮られたと思しき、平敷兼七のポートレイトも展示してあった。
東京会場は2月2日までだからもうすぐ終わるが、これは観るべきだ。なお、中野のギャラリー冬青でも今年6月に展示があるようだ。
ところで、ギャラリー内で突然初対面の女性に「キヤノンギャラリーでは何をやっているのか知っていますか」と訊かれた。知らなかったのだが、これからBLDギャラリーで沢渡朔の『Kinky』をまた観るつもりだと言うと、なぜか一緒に歩いて行くことになってしまった。
『Kinky』の展示は会期中に作品替えがあったので、後半のものも観たかったのだ。沢渡のスピード感・ライヴ感が発散しまくる35mmの写真群は、色気があってやはり素晴らしい。中判で撮られた、モデルに迫る親密さも良い。4千円以上する写真集が欲しかったが、ここはぐっと堪えた。
これも明日1/31までなので自分はもう行けないが、実はまた観たい。
●参照
○『LP』の「写真家 平敷兼七 追悼」特集
○沢渡朔『Kinky』と『昭和』(伊佐山ひろ子)
○沢渡朔『シビラの四季』(真行寺君枝)
○沢渡朔『Cigar』(三國連太郎)