浅川マキ唯一の公式映像作品が『幻の男たち LIVE 1984』(東芝EMI)であった。1984年6月30日、池袋の文芸座と、同年9月29・30日、京大西部講堂。40代前半の頃である。
文芸座ル・ピリエには解体前にいちど足を運んだことがあるが、西部講堂の中には入ったことがない。高校生のころ、屋根に描かれたオリオンの三ツ星にわけもなく憧れた。残念ながら試験に落ちてしまい、京都生活は夢に終わった。
映像はライヴ中心ながら、白黒写真を挟んだりと、随分俗っぽいつくりだ(もちろん悪くない)。浅川マキはまだサングラスをかけておらず、もの凄いつけ睫毛、そして猫背で歌う。「暗い眼をした女優」において、ドライアイスの煙の中からマキが現れる瞬間には「ぞくり」とする。やはり魔力があるのだ。
あらためて気付くのは、浅川マキは曲のテンポやリズムにあまり頓着していなかったということだ。そこがまた独自世界の一因でもあるが、優れた伴奏者たちに恵まれていたと言うこともできる。
近藤等則は相変わらずふざけまくるが、あまり面白くない。「IMA」バンド、世界中の聖地で吹くという行為を含め、思いつきのようにしか感じられない。しかし、浅川マキ初期の傑作『灯ともし頃』では、ストレートで良いトランペットを吹いていたのだが。
板橋文夫の名曲「グッドバイ」では、本多俊之がアルトサックスのソロを吹く。これがまた、味も何もなくて実につまらない。やはり見所は渋谷毅、川端民生、セシル・モンローのソロだと思うのだが、さほど出番は多くない。
ファンとしては大事な映像だが、もっと良い記録があるはずだ。誰か残していないのだろうか。
●参照
○『恐怖劇場アンバランス』の「夜が明けたら」、浅川マキ
○浅川マキが亡くなった
○浅川マキ+渋谷毅『ちょっと長い関係のブルース』
○浅川マキ DARKNESS完結
○ハン・ベニンク キヤノン50mm/f1.8(浅川マキとの共演)
○オルトフォンのカートリッジに交換した(『ふと、或る夜、生き物みたいに歩いているので、演奏者たちのOKをもらった』)
○浅川マキ『闇の中に置き去りにして』