『Play Backs』(BINGO、1998年)は私にとってデレク・ベイリーの愛聴盤のひとつだ。ヘンリー・カイザーやジム・オルークを含め、多くの音楽家たちが、「デレクと共演するようなリズムを作って送ってくれ」という要請に応えた変テコリンなリズム群。デレク・ベイリーは、ギター1本の即興で、そのレディメイドのサンプリング音源と共演する。印象としては、共演というより対決と表現すべきかもしれない。
しかし、ベイリーは、演奏後のコメントとして、「バッキングというよりアンサンブルとして、それぞれのトラックを扱うよう心がけた」などと言ってのけている。恐るべき人である。音楽家の意図によって再編集され生まれ変わった音源とは言え、「live musicians」とは全く異なる。何が出てくるかわからない散弾銃の嵐のなか、デレク・ベイリーは気を漲らせたヒクソン・グレイシーと化している。
この盤が作られる契機となったのが、『guitar, drums 'n' bass』(AVANT、1996年)だという。ずっと聴こうと思っていたのだが、つい先ごろ、中古レコード店で見つけてしまった。「ドラムンベース」という言葉がまだあるのかどうか、知らないけれど・・・・・・。
ここでは、ベイリーはD.J. NINJと共演している。当然ながら、『Play Backs』のように多彩なリズムではない。分裂と発散を目指すサンプリング音源のオペは、どうあがいても分裂にも発散にもなりえないものだ。しかしここに、分裂と統一という一見矛盾するふたつの要素を併せ持つデレク・ベイリーが登場すると、奇妙な疾走感が生まれている。
生ドラムス、例えば人間の営みを凝縮し、カリカチュア化したようなハン・ベニンクとの共演盤と聴き比べると、あまりの違いにあらためて驚いてしまう。分裂vs.分裂は、対決にならない(勿論、それも魅力的だ)。ヒクソンとプロレスラーとの異種格闘技戦は、ヒクソンの存在感を際立たせた。
心底から、デレク・ベイリーの実際の演奏を観たかったと思う。新宿ピットインに来るというので、大友良英とのデュオ、吉沢元治とのデュオの連日を予約したのだが、本人の体調が悪いとかでキャンセルとなってしまった。あれが最後のチャンスだった。
●参照
○田中泯+デレク・ベイリー『Mountain Stage』
○トニー・ウィリアムス+デレク・ベイリー+ビル・ラズウェル『アルカーナ』
○デレク・ベイリー『Standards』