『LP』は、沖縄でつくられている季刊の写真誌である。創刊以来気にはしていたが、今号の特集が「写真家 平敷兼七 追悼」だというので、初めて購入した。
2008年末に銀座ニコンサロンで開かれた写真展「山羊の肺」は、ちょっと感動的だった。同年に国立近代美術館で開かれた「沖縄・プリズム1872-2008」における氏の作品の展示よりも素晴らしかったのは、言葉の力、匿名多数の記憶の力をも感じたからだろうと思った。そんな写真家が、昨年2009年に亡くなった。年末に東京で開かれた写真展には、足を運ぶことができなかった。
特集には、平敷兼七が那覇新都心開発前の「銘苅古墳群」を撮影した作品群が掲載されている。被写体は「山羊の肺」などとは違って「もの」だが、それでも「人」に対する場合と同じように、間合いの自然さ、優しさといったものを感じる。技巧的に大見得を切っているところは全くない。モノクロのトーンが素晴らしい。
いろいろな方が追悼文を寄せている。見たことも会ったこともない写真家だが、平敷兼七という人物を慕う気持ちだらけで、つい泣けてしまう。そんな中で、オサムジェームス中川という写真家が、納得させられる言葉を記している。
「1970年代の日本の写真家の多くが「粗粒子、ブレ、ノーファインダー」といった、アグレッシブな表現スタイルが主流の時代に、平敷さんのような欲のない、メディテイティブな優しいまなざしに、ボクが共鳴する何かがあったのかもしれません。」
平敷兼七はライカM4とコンタックスG1を使っていた。この「まなざし」にはやはりレンジファインダー機だよなあ、と、これも納得した次第。
特集外ではあるが、豊里友行という俳人・写真家による、「彫刻家 金城実の世界」と題した写真が何枚か掲載されている。彫刻家の手、その手により作り上げられたぐちょぐちょとした人物のマチエールがとらえられている。金城実という異色の彫刻家の手仕事を実感できるような視線を提供してくれるもので、これも素晴らしい。この2月に同名の写真集が出されるようで、ちょっと楽しみだ。