Sightsong

自縄自縛日記

キャロル・ライ『情謎/The Second Woman』

2013-05-03 16:15:57 | 香港

キャロル・ライ『情謎/The Second Woman』(2012年)を観る。広州の書店で、20元だった。(大阪アジアン映画祭では、『2番目の女』という邦題で上映されている。)

何しろスー・チーを観たいがために入手したに過ぎない。ところで、広州は香港の隣だからか、バスにはスー・チーの顔があり、ショッピングセンターにはアンソニー・ウォンの大きな看板があった。

女優の妹と、目立たない姉は、双子の姉妹。妹の恋人は、密かに姉とも関係していた。姉はときに妹になり替わり、舞台にも立っていた。嫉妬と猜疑心が渦巻き、突然、姉が姿を消す。周囲の者は、姉が妹のふりをしているのではないか、妹は実は姉に殺されたのではないかと疑う。しかし、恋人にさえ、どちらがどちらかわからない。

ひとり二役の編集技術は凄いが、いまさら騒ぐほどのことでもないのかもしれない。まるで昼下がりのサスペンス劇場のような、ちゃちなドラマ。スー・チーはもっと良い映画に出てほしい。

●スー・チー出演
侯孝賢『ミレニアム・マンボ』
アンドリュー・ラウ『Look for a Star』
ジョニー・トー製作『スー・チー in ミスター・パーフェクト』


バーニー・ウィリアムス『Rhythms of the Game』

2013-05-03 10:00:00 | スポーツ

バーニー・ウィリアムス『Rhythms of the Game - The link between musical and athletic performance』(デイヴ・グルック、ボブ・トンプソンとの共著、Hal Leonard Books、2011年)を読む。

ニューヨーク・ヤンキース一筋16年の大リーガーにして、プロ級のギタリストである。

本書を読むと、きっと、野球好きとジャズ好きとは重なるに違いないと思わされる。「二足のわらじ」は彼だけではないし、それ以上に、ジャズは野球を題材にし続けた。たとえば、有色人種として大リーグ参加の草分けとなったジャッキー・ロビンソンという選手がいるが(1947年にメジャー・デビュー)、カウント・ベイシーが彼に捧げた「Did you see Jackie Robinson hit that ball?」という曲がある。

バーニー・ウィリアムスが米国代表として参加した日米野球の試合(2002年)を、東京ドームに観に行ったことがある。その時には、なぜ長打力が傑出しているわけでもない選手がヤンキースの4番に座っているのか不思議に思っていたのだったが、それが彼の魅力でもあった。長い手足を使った柔軟なバッティングは本当に魅力的で、イチローが憧れて同じ背番号51を付けたのも納得がいくものなのだった。

ところで、その時の日米野球の試合では、イチロー、アロマー、ウィリアムス、ボンズ、ジアンビ、ハンターと続く凄い面子だった。今岡誠がホームランを放ち、上原浩治がフォークでボンズから三振を3打席続けて奪った。渡米直前の松井秀喜が出塁した際、ジアンビに、ヤンキースに来いよとばかりに尻を叩かれていた(まだ、チームが決まっていなかった)。どこかに録画が残されていないだろうか。(>> リンク

本書に書かれているバーニーの考えは本当に面白い。たとえば、すべてが自分のプレイにとって理想的な条件となる瞬間を、「The Matrix Moment」と表現している。もちろん、映画『Matrix』のように、銃弾も何も見通せるという意味である。日本であれば、川上哲治が言った「ボールが止まって見える」か。やはり、スーパースターならではの奇跡はあったのだなと思う。

しかし、意外なことに、ほとんどの頁は、マインドコントロールについての考えに充てられている。ほとんどビジネス書である。楽しめ、準備をして「変数」を減らせ、失敗は成功の母だ、スランプのときにはいつものやり方を変えてみろ、といった具合に。これがまた、勇気づけられてしまうものだった。バーニーでさえ、大事な出番の前には、胃がばくばくし(「蝶が飛ぶ」)、足が震えていたのである。

バーニーのお気に入りの野球選手は、デレク・ジーターであり、マリアーノ・リベラであり、ペドロ・マルティネスであった。

それでは日本選手はというと、野茂英雄のことを、「asymmetrical rhythms」を持つ投手として、パワー・ピッチングの対極に位置づけている(59頁)。メジャー・デビューとなった1995年に、9イニング平均で11.1個の三振を奪ったピッチングが、やはり衝撃的であったようだ。また、イチローについては、「ゾーンを見極めて、どのような状況でも対処できる選手」として、オーネット・コールマンなどフリージャズの音楽家に例えている(71頁)。 

残念ながら、4シーズンをチームメイトとして過ごした松井秀喜のことには、言及されていない。2009年のワールド・シリーズでは、そのペドロ・マルティネスを打ち崩してMVPとなったというのに。