東京都写真美術館に足を運び、「マリオ・ジャコメッリ写真展」を観る。
前回、文字通りの衝撃を受けてから5年ぶりである。そのとき、ホルヘ・ルイス・ボルヘスに似た、ざらりとした肌触りを感じたのだったが、今回さらに多くの写真群を観ても、脳に直接アクセスしてくる剣山のようなインパクトは変わらない。
写真展の謳い文句として、「白、それは虚無。黒、それは傷跡。」という、ジャコメッリ自身のことばが掲げられている。まさに、コントラストの激しく強いプリントの白は、世界が暴力的であるという意味でのみ暴力的に虚無であり、断絶なのだった。
そして、とくに初期の具象的な作品群において顕著だが、写真として焼き付けられた世界の中に、凶暴に、時間が周囲から引き剥がされてしまっている部分がある。
もちろん高いコントラストも、その結果としての引っ掻き傷のような世界描写も、時間の引き剥がしも、フラッシュの使用や、フィルムや印画紙のセレクションや、プリント時の手の介入といった技術によって創出されている。しかし、この世界はただの巧の作品ではなく、写真家の内奥そのものだと思える凄みがある。