安部公房がどこかで褒めていたと思い出し、アンドレ・カイヤット『眼には眼を』(1957年)を観る。
シリア。フランス人医師は、非番のときに駆けこんできた患者の診察を断る。翌日、診療所で聞かされた話によると、患者を乗せた車が途中で止まってしまい、その夫が残りの6kmを必死で連れてきたが、亡くなったのだという。妻を亡くした夫は、医師を憎み、つけ狙う。そして、医師を砂漠の村に誘い込み、ダマスカスまでの200kmを一緒に歩いて帰るように強いる。
死を賭しての復讐譚であり、そこには相手の言うことを信頼する気持ちなど、お互いに毛頭ない。歩いても歩いても灼熱の砂漠と岩山、喉の渇き。もう救いようのない映画だ。
シリアは、1920-46年、フランスの委任統治下にあった。英仏に石油が狙われる地でもあった(医師が、酒場で「石油の仕事?」と訊かれる場面がある)。この映画に描かれたような、底なしの不信感があったということなのだろうか。