佐喜眞道夫『アートで平和をつくる 沖縄・佐喜眞美術館の軌跡』(岩波ブックレット、2014年)を読む。
沖縄県宜野湾市の佐喜眞美術館は、普天間飛行場の一部を返還してもらって建てられている。そのこと自体に非常に大きな価値と意義があるのだが、本書には、その経緯が書かれている。読んでみて驚いた。ここは、佐喜眞さんご自身が地主の土地なのであり、米軍に勝手に占拠された先祖の土地を、個人としての交渉によって取り戻したのだった。その際の敵は、米国ではなく、日本にあったのだという。むべなるかなという印象である。
佐喜眞美術館は素晴らしい場所だ。ジョルジュ・ルオーやケーテ・コルヴィッツのコレクションもさることながら、最大の目玉は、丸木位里・俊夫妻による「沖縄戦の図」である。この巨大な闇のような絵には、いわゆる「集団自決」によって、多くの者が肉親を殺す地獄が描かれている。これを前にした者は息を呑み、凝視を余儀なくされる。そして、美術館自体が、この絵を展示するためにつくられたようなものでもあったのだ。
薄いブックレットではあるが、他では聞けない話と意志とが詰まっている。
佐喜眞美術館の屋上から見る普天間(2007年) Leica M4、Carl Zeiss Biogon ZM 35mmF2、Tri-X、イルフォードマルチグレードIV(光沢)、2号フィルタ
●参照
佐喜眞美術館の屋上からまた普天間基地を視る
鄭周河写真展『奪われた野にも春は来るか』
平和祈念資料館、「原爆と戦争展」、宜野湾市立博物館、佐喜真美術館、壺屋焼物博物館、ゆいレール展示館
藤井省三『魯迅』(コルヴィッツと魯迅)
基地景と「まーみなー」
<フェンス>という風景
『けーし風』 ここからすすめる民主主義、佐喜真美術館