Sightsong

自縄自縛日記

フィリップ・K・ディック『ティモシー・アーチャーの転生』

2014-08-27 07:20:14 | 北米

福岡から帰京する機内で、フィリップ・K・ディック『ティモシー・アーチャーの転生』(サンリオSF文庫、原著1982年)を読了。

エンジェルの夫ジェフは、自分の父親であり、かつ大司教でもあるティム(ティモシー)が、イカレた女性カースタンと関係を持ったことを機に、自殺する。一方、ティムは、イエス以前のユダヤ教が、幻覚キノコを信仰の中心に置いていたことを突き止め、異端へと突き進む。それを信じるなら、イエスさえもドラッグの普及者に過ぎないのだった。やがて、あの世からジェフが戻ってきては、ティムとカースタンとにメッセージを伝える。カースタンもティムも死に向かう。

『ヴァリス』3部作の掉尾を飾る本作は、前の2作(『ヴァリス』『聖なる侵入』)とは、ディックが妄想する「神」との距離感が大きく異なるようだ。前2作では、大いなる存在に気付き対峙する人間の姿が描かれていたわけだったが、本作では、そのことは当然視されている。むしろ、偉大さをどうとらえればよいのかわからない「神」は、不可視なだけにグロテスクでさえある。

ここでディックが妄想する「神」の時空間は、まるで膨大なアーカイヴの海。その中で、意識や記憶を含めて情報は共有され、「わたし」も「あなた」も確固たる別々の存在ではなくなっている。

読んでいると、あまりの毒々しさと、ヴィジョン倒れ手前のあやうさとで、意識が混濁してくる。『ヴァリス』に続き、そのうち、『聖なる侵入』と本作も、早川文庫から新訳が出される予定であるらしい。3部作を最初から再読するのが楽しみでならない。

●参照
フィリップ・K・ディック『聖なる侵入』(1981年)
フィリップ・K・ディック『ヴァリス』(1981年)
フィリップ・K・ディック『ユービック』(1969年)
フィリップ・K・ディック『空間亀裂』(1966年)
フィリップ・K・ディックの『ゴールデン・マン』(1954年)と映画『NEXT』