キース・ジャレットの「スタンダーズ・トリオ」は、90年代半ばまでは熱心に聴いていたが、最近はさっぱりだ。初期の絢爛たる迫力が姿を変え、明らかにシンプルな演奏を指向するようになったからだ(『Bye Bye Blackbird』を聴いて、拍子抜けした人も多かったに違いない)。
もちろんシンプルなブルースに聞こえるものであっても、キースの旋律はトリッキーでさえあって、実はとんでもないことが起きているのかもしれない。それでも、最初期の『Standards, vol.1』における「All the Things You Are」の凄まじいイントロを聴いてしまうと、変貌したあとのキースはどうも受け容れられないのだった。こればかりは嗜好なので仕方がない。
絢爛系のスタンダーズの中では、『Standards Live』(ECM、1985年)が一番の愛聴盤である。ずっとLPを聴いていたのだが、最近、中古盤のCDを500円(!)で見つけて、その瞬間につかんでしまった。
Keith Jarrett (p)
Gary Peacock (b)
Jack Dejohnette (ds)
ECM盤らしく(ライヴだが)、「Stella by Starlight」で静かにはじまり、「Falling in Love with Love」や「The Way You Look Tonight」で演奏がクライマックスに達する。これは何度聴いても信じがたいほど素晴らしい。
ゲイリー・ピーコックもジャック・デジョネットも跳びはねるようで良いのだが、アクロバチックでさえあるキースが凄過ぎて、2人が追随するように聞こえてしまう(ひいき目だろうね)。全方面から、コードに服従しない音を次々に繰り出してきて、リズムがまたビートという重力から自由であるようだ。
わたしがキースのライヴをはじめて観たのは1993年。できれば、その前に観たかった。言っても詮無いけど。
●参照
キース・ジャレットのインパルス盤
70年代のキース・ジャレットの映像
ピーター・ブルック『注目すべき人々との出会い』、クリストのドキュ、キース・ジャレットのグルジェフ集