元沖縄オルタナティブメディアの西脇さんにお誘いいただき、島袋純さん(琉球大学)の講演会「"アイデンティティ"をめぐる戦い―沖縄知事選とその後の展望―」を聴講した。とても重要な指摘が多く、勉強になった。(法政大学、2014年12月20日)
※文責は当方にあります
沖縄からの飛行機が遅れたため、最初の45分ほど、以下の2氏による問題提起。
● 遠藤誠治さん(成蹊大学)
○沖縄が日本に属し続けている理由は、「日本国憲法があるから」であった。ならば、集団的自衛権容認等により立憲主義がないがしろにされているいま、日本に居続けなければならぬ理由はない。
○日本にとって、平和憲法が大事であれ、日米安保が大事であれ、沖縄のことを考えなければならなかった。しかし、そうはしてこなかった。
○原発と米軍基地の仕組みは同じという議論(「犠牲のシステム」論)をすると、島袋氏に、それは違うとの指摘をされてしまった。なぜなら、原発と異なり、沖縄は、何かと引き換えに米軍基地を受け容れたことなどないからである。それとは対照的に、「本土」の米軍基地(山梨、岐阜)は、「本土」の反基地闘争を抑えるため、沖縄に移転された。
○今日のテーマは、アイデンティティ、自治、立憲主義である。
● 前田哲男さん(軍事評論家)
○かつて、沖縄通いと同時に、ミクロネシアの核被害を取材した。(『フクシマと沖縄』という著作がある)
○その観点から、沖縄を、ミクロネシアを含むオセアニアの北にある島嶼だとして位置づけてみる。面積は7位、人口は4位、経済規模は3位である。かつて植民地または信託統治領であった国々である。
ここで島袋氏が登場。
○2010年1月、辺野古新基地に反対する稲嶺名護市長が誕生。同年、自民沖縄県連も辺野古反対に方針転換した(翁長・現知事による)。11月の知事選では辺野古反対を掲げる仲井眞知事の当選、2012年総選挙では全自民候補が辺野古反対を掲げ当選、と続いた。
○稲嶺名護市政では、使い勝手の良い再編交付金を受け取らなかった。そのため、たとえば「わんさか大浦パーク」(道の駅)では、光熱水費を払えない事態となったが、さまざまな工夫を行って、自力で経営するにいたった。
○2013年1月、沖縄の「建白書」を日本政府に提出。
○そのような全沖縄的な反基地要求に対し、日本政府は、沖縄の歴史的な位置を無視し、再植民地化の意思をもって応えた。サンフランシスコ講和条約による沖縄の切り捨ては、沖縄にとっては「屈辱の日」であったが、2013年のその日、日本は「4・28主権回復政府式典」というお祝いを行った。また、2013年11月には、圧力により、沖縄自民国会議員の方針を中央に従わせた(平成の琉球処分)。2013年12月には、仲井眞知事が辺野古に関する公約を転換した。
○「建白書」を実現するための「島ぐるみ会議」は、組織ではなく、市民が主導するものとして創設された。基本的人権と自己決定権を主張するものであり、日本への陳情でも要請でもない。
○沖縄では、アメリカと日本による抑圧という痛みを相互に共有し、社会としての連帯、すなわち、自由に物が言える公共的空間を、市民が創り上げた。そして、「復帰」にあたっては、基本的人権を尊重する日本国憲法を自ら選んだ(復帰運動=立憲主義運動)。これが沖縄のアイデンティティである。
○日本の「再植民地化」に対して大手メディアと国民は黙認・支持し、さらに、総選挙勝利により、この方針は正当化されている。
○それでは、沖縄が再び立憲主義を引き取り、社会をつくりかえていくしかないだろう。
○今後、辺野古基地建設に向けて、①翁長知事による取り消し・撤回、②国による訴訟、③迅速な最高裁による国側勝訴判決(最高裁は一政府機関である)、④裁判所による職務執行命令、⑤国による強制代執行、と続くシナリオが考えられる(7か月~1年のプロセス)。
○沖縄は、こうして抑圧される人権保障のための国家の権限を、上と下から移譲していく。
○上は、国連や国際法による立憲主義的な介入である(沖縄差別に関し、国際人権委員会や国連人種差別撤廃委員会による日本への所見・勧告が出されている)。
○下は、先住民族・マイノリティの主権者としての権利回復である。内的自己決定権の制度化であり(外的=独立ではない)、そのひとつの例がスコットランドである。スコットランドの「権利章典」は、沖縄の「建白書」に似ている。
○今後、憲法改正がなされれば、それは立憲主義の否定、国際立憲主義からの脱落を意味するだろう。国民の権利、行政の透明性、環境アセスメント、すべてが時代に逆行してしまう。
○ところで、スコットランドは属地主義(スコットランド人になる意思を重視し、一定基準のもと住んでいる人が選挙権を持つ。社会契約的な考え)、日本は血統主義(血縁によるつながり)を原則とする。
●参照
島袋純「辺野古新基地建設の是非」
2010年12月のシンポジウム「沖縄は、どこへ向かうのか」
シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(1)(2010年)
シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(2)(2010年)
シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(3)(2010年)
シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(4)(2010年)
シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(5)(2010年)
シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(6)(2010年)