Sightsong

自縄自縛日記

中川右介『松田聖子と中森明菜』

2014-12-29 23:03:06 | ポップス

中川右介『松田聖子と中森明菜 1980年代の革命』(朝日文庫、2014年)を読む。

山口百恵の引退が1980年。それと入れ替わるように、1980年代の怪物ふたりが前後して登場してきた。本書は、同じ著者の『山口百恵』の続編として書かれている。

著者によれば、松田聖子は、徹底的に「どう見えるか」だけを戦略的に選択し行動できる天才であり、中森明菜は、逆に内面を痛々しいほどに見せつける天才であった。ふたりとも、物凄い歌唱力を持っていた。対照的な自己プロデュースの能力と歌の実力こそが、80年代の歌謡曲に革命を起こした源泉なのだった。そして、その過剰性のために、かたや「幸福」や「自立」を、かたや「不幸」や「孤独」を、私生活にまで侵入させてしまった。

本書は、この天才ふたりの芸能人生を、やや距離を置きつつ、同時にエンタテインメントとして描く。『ザ・ベストテン』を楽しみに観ていたことがある者(おもに40代以降?)にとっては、自分史の一部を「歴史」として見せてくれるわけであり、これはたまらない。ああ、懐かしいな。

違う個性や立ち位置のゆえに軋轢はなかったように思いこんでしまうが、そうでもなかったようだ。作詞・作曲ともにニューミュージックの才能を如何に取り込むかが勝負であり、松田聖子はユーミンが、中森明菜は井上陽水が「認めた」から、その実力が認識された。その陽水が中森明菜に提供した「飾りじゃないのよ涙は」には、「ダイヤと違うの涙は」という歌詞がある。これは、松田聖子が歌った「瞳はダイアモンド」(松本隆・ユーミン)への一刺しであったという。知らなかった。

●参照
中川右介『山口百恵』


シャーリー・クラーク『Ornette: Made in America』 再見

2014-12-29 10:02:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

シャーリー・クラークオーネット・コールマンを撮った異色作『Ornette: Made in America』(1985年)が、ついにDVD化された。

わたしはVHSの汚いダビングものしか持っておらず、また、オリジナルのVHSソフトも高騰して長年とても入手できる代物ではなかった。このDVDは、画質も綺麗になっており、さらに、英語字幕まで入っている(オーネットの英語はわかりにくかったのだ)。巷で大騒ぎになっているのかどうか知らないが、嬉しい大事件である。

ここには、貴重な映像がたくさん収録されている。

○ 1983年9月29日、オーネットが生まれたテキサス州フォートワース市からの表彰式。
○ フォートワースでの「アメリカの空」演奏。周囲での「caravan of Dreams」のパフォーマンス。イカレポンチが踊りまくるディスコでのヴァイオリンやアルトサックスの演奏。
○ 1968年、12歳の息子デナードとオーネットとの奇妙な会話、チャーリー・ヘイデンを加えたセッション(デナードはもう自由にドラムスを叩いている)。
○ 1984年、線路の横にあるオーネットの生家において、デナードに昔話をするオーネット。
○ 1968年、5年前のキング牧師によるワシントン大行進の意義を掲げた場での演奏。
○ 1969年、サンフランシスコでの「Sun Suite」演奏。オーネットが吹いている民族楽器は何だろう。
○ 1980年、ミラノでのプライムタイムによる演奏のテレビ放送。
○ 1972年、ニューヨークのArtists' Houseにおけるクインテット(たぶん)の演奏。ドン・チェリー、エド・ブラックウェル、デューイ・レッドマンが見える。ヘイデンの姿は見えない。
○ 1972年、ナイジェリアでの地元音楽家たちとの共演。その後、モロッコ・ジャジューカ村での演奏。
○ ウィリアム・バロウズ、ブライオン・ガイシン、ジョージ・ラッセル、ジェイン・コルテス(妻)らの登場。
○ オーネット自身やジョージ・ラッセルによる、バックミンスター・フラーからの影響についての言及。フォートワースでは、ヴァイオリン3人、チェロ、デナードのドラムスによるフラーに捧げた演奏。
○ オーネットの思い出話。同じフォートワース出身のサックス奏者キング・カーティスは、オーネットがニューヨークに出てきたとき、既にロールス・ロイスに乗っていた。
○ ニューヨーク、ワールド・トレード・センター前での演奏。オーネットはアルトを、デナードは電子ドラムス。

さらに、かつて、NASAからオーネットに対して「宇宙でアーティストとして活動すること」の打診があったとの話をきっかけに、宇宙で自転車を漕ぐオーネットのコラージュなど、映像はサイケデリックで(昔の)電子インターフェースびかびかのものになっていく。しかも、性的な話にまで踏み込んだりして。どうかしている。

夜中に観ると朦朧としてしまうこと間違いなし。オーネットよ永遠に。

●参照
シャーリー・クラーク『Ornette: Made in America』 オーネット・コールマンの貴重な映像
オーネット・コールマンの映像『David, Moffett and Ornette』と、ローランド・カークの映像『Sound?』
スリランカの映像(6) コンラッド・ルークス『チャパクァ』
オーネット・コールマン『Waiting for You』
オーネット・コールマン『White Church』、『Sound Grammar』
オーネット・コールマンの最初期ライヴ
オーネット・コールマン集2枚


森まゆみ+太田順一『大阪不案内』

2014-12-29 09:04:01 | 関西

森まゆみ(文章)、太田順一(写真)による『大阪不案内』(ちくま文庫、2009年)を読む。

もとは雑誌の連載なのだろうか、大阪のあちこちが紹介されている。蘊蓄を傾けていたりもするが、大概は、地元の人たちとの会話だとか、海老フライを食べただとか。もとより、タイトルにも「不案内」とあり、「不案内」な著者が大阪を歩いての印象は、結果として「案内」にはなっていない。それでも、たまに仕事でのみ、それもほとんどは日帰りで行くわたしのような人間には面白い。

これを読んで。

○ 東京の「京橋」と大阪の「京橋」とは、アクセントの位置が違うんだな。
○ 坂が多い空堀商店街(万城目学『プリンセス・トヨトミ』に登場)で、お好み焼きを食べたい。
○ 古くからの洋食屋を目指すべし。
○ たれを刷毛で塗る伝統的な大阪の寿司屋を目指すべし。(わたしは布施の「すし富」に2回ほど行っただけだが、安くて感動的に旨かった。)

旧・猪飼野の写真集を出している太田順一の写真も優しくてとても良い。そういえば、2台のライカM6にズミルックス35mmF1.4を付けたものの、レンズの性能がひどかったという記事を読んだことがあるが、これもズミルックスによるものだろうか。

●参照
北井一夫『新世界物語』