Sightsong

自縄自縛日記

たくさんのミントとたくさんのパクチー

2016-05-06 23:16:06 | 食べ物飲み物

東西線木場駅の近くに「カマルプール」というインド料理店があって、ドラマ『孤独のグルメ』に取り上げられて以来、大人気である。わたしも夜中につい見入ってしまい、これはいつか行かねばと思っていた。近所に住む方によれば、その前から旨くて評判だっただけに、混んでいて入れないことは残念だとの言。そんなわけで、先日、電話をかけてあと30分したら行きますと予約を入れた。

看板メニュー(のひとつ)は「ラムミントカレー」というもので、文字通り、ソテーしたラム肉と、冗談のようにたくさんのミントが、カレーと混ざり合っている。ラムは新鮮で、ミントの効果もあってかまったく臭くない。しかも、ふつうはインドのカレーを食べたあとは口の中にスパイス世界ができるものだが、この場合は、妙にさっぱりして新鮮な体験だった。

他には「チーズクルチャ」や、チーズをゴルゴンゾーラにした「ゴルゴンゾーラクルチャ」なるものがある。チャパティやナンのような小麦粉の皮の中に、やはり冗談のように大量のチーズを封じ込めて窯で焼いたもので、これもチーズ好きにはたまらない。さらに旨そうな料理がたくさんあって、こんどまた行こうと心に誓っている。

日暮里は昔住んでいた近くの街で、千駄木との間にある谷中銀座はいつも賑わっている。その端っこに、「夕焼けだんだん」という階段があって(つまり、山の手の東端の細い山である)、それをのぼったところに「深圳」という小さい店がある。わたしが住んでいたころには多分なかった。

なお、階段の下には「シャルマン」というジャズ喫茶や(学生の頃には敷居が高くて入ったことがない)、「ザクロ」というペルシャ・トルコ料理の店や(ここがまた凄まじいところなのだが)、「蟻や」というとんかつ屋(篠山紀信が宮沢りえを撮った『Santa Fe』が当時置いてあって興奮しながら食べた)なんかがある。

その「深圳」が最近評判のようなので、わざわざ電車に乗って行ってきた。目玉は「ラム肉とパクチーの炒め飯」である。静岡の地ビール「パンダビール」を飲みながらしばらく待っていると、大迫力の皿が運ばれてきた。ご飯とラムの上に、野っ原のように大量のパクチーが載せてある。それが目当てだったのではあるが、実物を見ると驚く。キワモノではない。下のコッテリした肉飯とのバランスがとてもよくて、あっという間に夢中になって平らげてしまった。

それにしても、どちらもラム肉に対するカウンターとしての、生のスパイス。過剰なのに、旨さにしか貢献していない。

パクチーはシャンツァイでもあり、コリアンダーでもある。すなわちカレーに使われているわけであるから、カレーへのカウンターとしてパクチーを大量に入れてもまた旨いのではないか。あるいは大量のパセリであればどうなるだろう。


デイヴィッド・ゴードン・ホワイト『犬人怪物の神話』

2016-05-06 07:11:59 | 思想・文学

デイヴィッド・ゴードン・ホワイト『犬人怪物の神話 西欧、インド、中国文化圏におけるドッグマン伝承』(工作舎、原著1991年)を読む。

私たちも、自己判断のない権力の忠実な実行者のことを「イヌ」などと称したりする。犬が怖くて苦手なわたしにさえ、それはちょっと犬に失礼ではないかと思えたりもする。しかし、本書によれば、そのような扱いは、神話の時代から全世界で見られるものなのだった。例外は無数にあるにせよ、概ね、犬に重ねられたイメージは、自己の文明外への恐怖と好奇心、そして穢れであった。そして多くの場合、犬の顔をした人間という形が表象としてあらわれた。

ヨーロッパから見れば、紀元前4世紀のアレクサンドロス大王の東方遠征があった。東方・アジアは不可解な外部とみなされ、そのことは、イスラームの勃興によってエスカレートした。そのようにして外部を創りだし、自身の物語を強化していった。そのような視線の形成において、犬がなんらかの役割を与えられてきたわけである。たとえば、14世紀のペスト大流行においても、恐怖のペストは東側の犬でもあった。

恐怖・好奇心の向かう先は、インドともエチオピアとも称されたわけだが(現在の地理的感覚からみれば冗談のように大雑把)、そのインドにおいても、地理的にも、精神的にも、外部を設定した。精神的には、それはアウトカーストであり、やはり犬が重なっていった。

中国においては王・帝の側の物語に入っていたりと、多少様相が異なるような記述もある。モンゴル帝国の表象が狼であったことも無縁ではないだろう。匈奴やモンゴルは中国に重なったり、外敵であったりもしたのだから。

必ずしも犬にばかりでなく、やや風呂敷を広げ過ぎている感もあるが、面白い本である。インドの穢れという観点だけでなく、日本や朝鮮における犬食い文化についても言及してほしかったところ。