Sightsong

自縄自縛日記

トニー・マラビー『Incantations』

2016-05-28 14:01:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

トニー・マラビー『Incantations』(clean feed、2015年)を聴く。

Paloma Recio:
Tony Malaby (ts, ss)
Ben Monder (g)
Eivind Opsvik (b)
Nasheet Waits (ds)

ここではマラビーはソプラノとテナーを吹いている。透明感のあるソプラノ、どっしりとしたテナーのいずれも、無数の異なる周波数の集合体として実に重層的な音を出しており、変わらず素晴らしい。clean feedレーベルの本盤のサイトでは、「メインストリーム」と「アヴァンギャルド」とは相反するものではなく、マラビーにとってはコインの両面なのだと煽ってあり、これはまさに言い得て妙。現代最強のサックス奏者の称号を贈ろう。(何がどのように?)

このグループのよさはベン・モンダーの参加にもある。まるで並行する別宇宙で超然として別文脈のギターを鳴らしていて、ときおりこちらの世界に飛び移ってきて基底音となったり絡みあったりするようなイメージ。また、アイヴィン・オプスヴィークのベースはこんなに重たかったのかという発見もある。

最後の17分以上にわたる「Procedure」では興奮必至。

●トニー・マラビー
アイヴィン・オプスヴィーク Overseas@Seeds(2015年)
ハリス・アイゼンスタット『Old Growth Forest』(2015年)
ジェシ・スタッケン『Helleborus』(2014年)
クリス・ライトキャップ『Epicenter』(2013年)
トニー・マラビー『Scorpion Eater』、ユメール+キューン+マラビー『Full Contact』(2013、08年)
トニー・マラビー『Adobe』、『Somos Agua』(2003、13年)
リチャード・ボネ+トニー・マラビー+アントニン・レイヨン+トム・レイニー『Warrior』(2013年)
チェス・スミス『International Hoohah』(2012年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas IV』(2011年)
ポール・モチアンのトリオ(2009年)
ダニエル・ユメール+トニー・マラビー+ブルーノ・シュヴィヨン『pas de dense』(2009年)
トニー・マラビー『Paloma Recio』(2008年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas III』(2007年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』(2007年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas II』(2004年)


ジョージ・コールマン『A Master Speaks』

2016-05-28 07:13:17 | アヴァンギャルド・ジャズ

あっと驚くジョージ・コールマンの新作、『A Master Speaks』(Smoke Sessions Records、2015年)。いまもNYで時折吹いているとの記事を読んではいたが、このように形にして出してくれると妙に嬉しい。

George Coleman (ts)
Mike Ledonne (p)
Bob Cranshaw (b)
George Coleman, Jr. (ds)
Peter Bernstein (g)

やはり普通のジャズ・ファンとしては、再生ボタンを押してピアノ・トリオの音が飛び出てくると無条件に気持ちが引き上げられるものだ。ヴェテラン、ボブ・クランショウのベースもよく鳴っているし、これが初録音だという息子ジョージ・コールマン・ジュニアのドラムスは小気味よくスイングしている。

ところが肝心のジョージ・コールマンのテナーが吹き始めると、ヘンにエコーがかかっていて、これでは下手するとムード歌謡。もうちょっとソリッドな録音をしてくれなかったものかと思うが、聴いていくと気にならなくなる。この人もいい感じに枯れて勢いをどこかに棄て、手癖と味だけが残っている。その結果としてのムード歌謡のあやうさならばむしろ歓迎というべきか。

「Blues for B.B.」はB.B.キングに捧げたものであり、この1曲だけギターのピーター・バーンスタインが参加している。イントロがまるで「Georgia on My Mind」だが、かつてコールマンがB.B.キングと共演したのは隣のテネシー州メンフィス。それにしても気持ちよく吹いているブルース。B.B.キングとの共演は、コールマンがシカゴに出ていく前の若い頃だということで(その後NY)、録音なんか残っていないんだろうなあ。クリフォード・ジョーダンがレッドベリーに捧げたアルバムを作ったように、ジョージ・コールマンの、もろブルースの作品も吹き込んでほしいものだ。

●参照
アーマッド・ジャマル『Ahmad Jamal A L'Olympia』(2001年)(ジョージ・コールマン参加)
エルヴィン・ジョーンズ『Live at the Village Vanguard』(1968年)、ジョージ・コールマン『Amsterdam After Dark』『My Horns of Plenty』(1978、1991年)
Timelessレーベルのジョージ・コールマン(1975、77年)
シダー・ウォルトンの映像『Recorded Live at the Umbria Jazz Festival』(1976年)(ジョージ・コールマン参加)
マックス・ローチの名盤集(1955-61年)(ジョージ・コールマン参加)