Sightsong

自縄自縛日記

東松照明『光源の島』

2016-05-29 23:57:14 | 沖縄

新宿ニコンサロンにて、東松照明『光源の島』を観る。

この大写真家の死後、宮古島において見つかったカラープリントから選ばれた69点は、1973年から91年の間に撮影されたものであるという。沖縄本島も、宮古島や石垣島も、渡嘉敷島や久高島など本島近くの離島もある。またスクエアも35ミリもある。

もっとも強く受ける印象は、ぎとぎとといってもいいほどの原色群だ。それは日中であってもフラッシュを焚いて撮られているからでもある。そして被写体としては、主に、祭祀をとりおこなう人たち、昔の生活文化を保持している老人、海人などが多い。あまりにもわかりやすい、南島に向けられた視線と演出である。

確かに写真は素晴らしい。しかし、東松照明という思想を脇に置いて、何だか素晴らしいものでしょう、と提示する行為に見えてならない。会場に置いてあったカメラ雑誌に企画監修を行った評論家の文章が書かれていて、驚くほど何も書かれていなかった。

●参照
平敷兼七、東松照明+比嘉康雄、大友真志
東松照明『光る風―沖縄』
「琉球絵画展」、「岡本太郎・東松照明 まなざしの向こう側」、「赤嶺正則 風景画小品展」
豊里友行『沖縄1999-2010』、比嘉康雄、東松照明
東松照明の「南島ハテルマ」
東松照明『新宿騒乱』
青木亮『二重被爆』、東松照明『長崎曼荼羅』
沖縄・プリズム1872-2008
仲里効『フォトネシア』
仲里効『眼は巡歴する』


ベルトルト・ブレヒト『ガリレイの生涯』

2016-05-29 10:13:43 | ヨーロッパ

ベルトルト・ブレヒト『ガリレイの生涯』(岩波文庫、原著1955年)を読む。

底本は1955年版だが、初稿が書かれたのは1938年、ブレヒトが既にナチスドイツを脱出した後のことである。ブレヒトの作品はヒトラー政権によって弾圧され、亡命後は焚書の対象となっている。

一読すると、この物語は17世紀初頭における「固陋な宗教界、対、真理を求める科学者」の構図のように見える。実際に、本書の表紙に書かれた文句はそれを意識したもののようだ。しかし、それは皮相な見方に過ぎない。ガリレオを英雄視する視線はあくまで大衆受けする物語なのであり、実際のところ、このガリレオ事件は宗教界における許容と拒絶とのフリクションだった(田中一郎『ガリレオ裁判』)。

ブレヒトの視線は実に複眼的である。主役はガリレオでも宗教界の権力でも政治権力でもなく、むしろ、大衆なのだった。そしてブレヒトが大衆に向けるまなざしは決してあたたかくはない。それは、ガリレオという「科学者」の存在を二次利用して物語をつくりあげ、その過程で容易におかしな方向へ自己誘導されていく大衆の姿である。またガリレオを英雄視し、拷問の恐怖から折れた彼を侮蔑する者は、他者を手段として扱うという点で倫理に背いていた。

「科学者」が社会とのかかわりを顧みず「真理」を追究する姿に対するブレヒトの視線もまた複雑だ。この作品が何度も書き換えられていく途中で、2度の原爆投下があって、そのことも作品に反映されている。また、「真理」による「新しい社会」は実際のところ幻惑に過ぎないという、ブレヒト自身の苦い経験があった。もちろん、「真理」を理解できない宗教権力も政治権力もシニカルに描かれているのだが、その一方で、ガリレオにもまた狡猾で偏狭な性格を持たせている。

さまざまな読み方ができる、再読すべき作品に違いない。

●参照
田中一郎『ガリレオ裁判』


川下直広カルテット@なってるハウス

2016-05-29 08:03:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウスに足を運び、新作『初戀』を出したばかりの川下直広カルテット(2016/5/28)。

Naohiro Kawashita 川下直広 (ts)
Koichi Yamaguchi 山口コーイチ (p)
Futoshi Okamura 岡村太 (ds)
Daisuke Fuwa 不破大輔 (b)

最初にバート・バカラックの「Alfie」、それからホイットニー・ヒューストンの「Saving All My Love for You」、チャーリー・ヘイデンの「First Song」、スタンダード「Misty」、スキータ・デイヴィスが歌った「The End of the World」、カル・マッセイの「Things Have Got to Change」なんかを演って、最後は尾崎豊の「I Love You」。「Misty」においては最初のテナーのカデンツァが激しく、みんな笑いながら愉しそうに入っていった。そして「I Love You」は原曲のメロディーが命だとばかりに即興のソロ廻しはせず吹きあげた。

ヴィブラートが大きく効いていて、音色が濁った川下さんのテナー。つなぎの音にいつもの川下節があらわれる。そして吹く曲はスタンダードやポップス、この硬軟の懐の深さがたまらないのだった。

岡村さんと不破さんはここでは駆動力。シームレスなソロを展開する山口さんのピアノはやはり面白かった。

zu-jaさんも聴きに来ていて、ジャズのことばかり四方山話。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4 

●参照
渡辺勝+川下直広@なってるハウス(2015年)
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』(1988年)
『RAdIO』(1996, 99年)