Sightsong

自縄自縛日記

イングリッド・ラウブロック+トム・レイニー『Buoyancy』

2016-05-30 23:33:09 | アヴァンギャルド・ジャズ

イングリッド・ラウブロック+トム・レイニー『Buoyancy』(Relative Pitch Records、2014年)を聴く。

Ingrid Laubrock (ss, ts)
Tom Rainey (ds)

イングリッド・ラウブロックのサックスは決してこれ見よがしでもケレン味があるわけでもなく、持てるエネルギーをぶち込む熱演型でもない(もっとも、実際にはそんなに余裕綽綽で吹いているわけではなかったが)。周囲の空気を取り込んで一体化するような感覚があって、ちょっと馥郁たる香りとでもいうのだろうか。今回はドラムスとのデュオということで、そのあたりの振幅の大きな彼女のサックスを十分に味わうことができた。

そして相方のトム・レイニーは、サウンドをドライヴするでも鼓舞するでもない。軽いといえば軽いのかもしれないが、さまざまな色の火花をあちこちではじけさせているようで、これがラウブロックの豊かな音と相まって、時間を忘れさせてくれる。

●イングリッド・ラウブロック
イングリッド・ラウブロック UBATUBA@Cornelia Street Cafe(2015年)
ヴィンセント・チャンシー+ジョシュ・シントン+イングリッド・ラウブロック@Arts for Art(2015年)
アンドリュー・ドルーリー+ラウブロック+クラウス+シーブルック@Arts for Art(2015年)
イングリッド・ラウブロック『ubatuba』(2014年)
イングリッド・ラウブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
アンソニー・ブラクストン『Ao Vivo Jazz Na Fabrica』(2014年)
ネイト・ウーリー『Battle Pieces』(2014年)
アンドリュー・ドルーリー『Content Provider』(2014年)
トム・レイニー『Hotel Grief』(2013年)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)
イングリッド・ラブロック『Who Is It?』(1997年)

●トム・レイニー
イングリッド・ラブロック UBATUBA@Cornelia Street Cafe(2015年)
イングリッド・ラブロック『ubatuba』(2014年)
イングリッド・ラブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
トム・レイニー『Hotel Grief』(2013年)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)
イングリッド・ラウブロック『Zurich Concert』(2011年)
ティム・バーン『Electric and Acoustic Hard Cell Live』(2004年)


北井一夫『流れ雲旅』

2016-05-30 21:26:24 | 写真

この日曜日に青山のビリケンギャラリーに足を運び、北井一夫『流れ雲旅』を観た。

てっきり、つげ義春+大崎紀夫+北井一夫『つげ義春流れ雲旅』(朝日ソノラマ、1971年)の復刻なのだろうと思い込んでいたが、そうではなかった。今回の作品は北井さんの写真集なのであり、しかも、そのほとんどは改めて選ばれ、新たにプリントされている。

在廊されていた北井さんに伺ったところ、今回はプリントはご自身ではなく他の方に焼いてもらったのだということ。そして、ほとんどは当時使っていたキヤノンの25mm(ボディはキヤノンのIIBかIVSb)で撮られたのだということだった。この25mmは癖玉で、北井さん曰く、「結局は信用できなかった」。しかし、その癖は実にいい効果をあげていて、青森県東通村の民家の前で撮られた家族写真には見事な光芒が写り込んでいる。一方で、青森津軽の森の中に立つ馬も激しい逆光で撮られているものの、写りは現代のレンズのようにクリアだ。北井さんによれば、個体差もあり、また使い方によってずいぶん違うのだという。

それにしても素晴らしく沁みる写真群だ。青森も、四国のお遍路も、九州の国東半島もある。いくつかには、当然、つげ義春さんや、ご夫人の藤原マキさんが写っていて、実に味がある。既につげさんの写真にはすべて買い手がついていた。

今回出された写真集(ワイズ出版)を求め、せっかくなので、手持ちの古い『つげ義春流れ雲旅』にご署名をいただいた。前日の展示初日にはなんとつげ義春さんご本人もいらしたそうで、「昨日来ればふたりの署名が並んだのに」と笑いながら言われてしまった。

帰宅してから新しい写真集を紐解いてみると、確かに違う。東通村の民家の写真が、左右がトリミングされず、良い印刷がなされているのは嬉しい。また、恐山の宿で部屋を覗き込む少女は、今回の写真ではなんと笑っている。下北半島尻老の海岸の写真では、前の版では遠くから遊ぶ少年をとらえていたところ、今回はより近く寄って座り込む少年たちを写している。眼が悦ぶような、新鮮な驚きがあった。

北井さんは既にソニーのデジタル一眼を使っている。以前に尋ねたときには、まだ試している段階だとのことだったが、この日は、そろそろ発表を考え始めてもいいかなと呟いていた。50mmと35mmのエルマーをアダプターで付けておられるそうである。来るべきデジタル・カラーの北井写真を観る日が楽しみだ。


東通村、旧(左)と新(右)


恐山、旧(左)と新(右)


下北半島尻労、旧(左)と新(右)

●北井一夫
『COLOR いつか見た風景』
『いつか見た風景』
『道』(2014年)
『Walking with Leica 3』(2012年)
『Walking with Leica 2』(2010年)
『Walking with Leica』(2009年)
『北京―1990年代―』(1990年代)
『80年代フナバシストーリー』(1989年/2006年)
『フナバシストーリー』(1989年)
『英雄伝説アントニオ猪木』(1982年)
『新世界物語』(1981年)
『ドイツ表現派1920年代の旅』(1979年)
『境川の人々』(1978年)
『西班牙の夜』(1978年)
『ロザムンデ』(1978年)
『遍路宿』(1976年)
『1973 中国』(1973年)
『湯治場』(1970年代)
『村へ』(1970年代)
『過激派』(1965-68年)
『神戸港湾労働者』(1965年)
大津幸四郎・代島治彦『三里塚に生きる』(2014年)(北井一夫出演)