Sightsong

自縄自縛日記

平出隆『ウィリアム・ブレイクのバット』

2016-05-27 07:02:27 | スポーツ

平出隆『ウィリアム・ブレイクのバット』(幻戯書房、2004年)を読む。同じ著者の『白球礼讃』や『ベースボールの詩学』が滅法面白かったこともあって、古本屋の棚に見つけて即購入決定。

本書はごく短い連載エッセイを集めたものであり、それだけに、この詩人の話の切り上げ方が潔く、ちょっとほれぼれする。海外滞在のこと、自動車免許取得の苦労話、クルマや中古カメラへの偏愛、そしてもちろん野球のことなんかが書かれている。文体は気取ってはいるものの、ときに自虐的でもあったりして、威張ろうとか自慢しようとかいった魂胆などはまるで見えない。なるほど、文章はこうあらねばならない。

ときどき登場する画家、ドナルド・エヴァンス。かれはアメリカで生まれ、架空の国の架空の切手を書き続けた。通貨や言語も、文化や歴史や政治も妄想した上で、である。そしてオランダにおいて火事に巻き込まれ、31歳のごく短い生を終えた。頭の中にひっかかって離れないもの、小さなもの、極めて個人的なものにこだわって、それをやはり個人的な形にしていったところが、この詩人にも重なってみえる。

それにしてもこの一節。

「あれから私は、なんと多くの失敗をやらかしてきたことだろう。思うだけで気が遠くなる。落としもの。忘れもの。見過し。乗り過し。書き損じ。打ち損じ。サードゴロエラー。器物損壊。自己破損。激昂。寝坊。いうべきだった一言。いわなければよかった一言。エンスト。
 そうしたものは、今日もやったし、明日もやるだろう。」

●参照
平出隆『ベースボールの詩学』、愛甲猛『球界の野良犬』


大矢内愛史『ひくれてよもはくらく』

2016-05-27 00:39:06 | アヴァンギャルド・ジャズ

大矢内愛史『ひくれてよもはくらく』(Armageddon Nova、2015年)を聴く。

Aishi "fermata" Oyauchi 大矢内愛史 (curved ss)

函館の大ヴェテランによる、カーヴド・ソプラノを使った完全ソロ。冒頭曲が讃美歌の「Abide With Me」みたいだなと思っていたら、何のことはない、それこそが「日暮れて四方は暗く」なのだった。その他の曲は「かぜ」と名付けられた連作。

やはり、音の長い合間にも息を吹き込み続けている。音を出すときにもマウスピースの隙間からエアを放出し、管の中にもエアや唾を吹き込むノイズがしていて、まるで燃費が悪い昔のアメ車のようだ。もちろんそれが人間臭くてとてもいいと思うのである。

●参照
『大矢内愛史の世界 wrong exit』(2014年)
明田川荘之『ライヴ・イン・函館「あうん堂ホール」』(2013年)