Sightsong

自縄自縛日記

寺井尚之『Dalarna』

2017-05-28 23:23:39 | アヴァンギャルド・ジャズ

寺井尚之『Dalarna』(Overseas、1995年)を聴く。

Hisayuki Terai 寺井尚之 (p)
Masahiro Munetake 宗竹正浩 (b)
Tatsuto Kawahara 河原達人 (ds)

トミー・フラナガンの弟子筋にあたることで有名な寺井氏だが、実は、こうしてプレイを聴くのははじめてだ。

流麗で澄んだ水のようなピアノは、確かに、トミフラを思わせる。しかし独特な雰囲気のほうがまさっている。こうしてトミフラやバド・パウエルの曲を見事にスイングする演奏をなんども繰り返して聴いていると、ピアノトリオが多くの人に好まれるのにはわけがあるのだなと感じてしまう。

こんど大阪に行くことがあれば、Overseasで寺井さんを聴こう。


”今井和雄/the seasons ill” 発売記念 アルバム未使用音源を大音量で聴くイベント・ライブ&トーク@両国RRR

2017-05-28 21:43:33 | アヴァンギャルド・ジャズ

両国のRRRにはじめて足を運んだ(2017/5/28)。今井和雄『the seasons ill』の発売を記念して、結果的に採用されなかった音源を聴き、今井さんのソロライヴを観て、さらにはトークという、盛り沢山の企画。

■ 今井和雄ソロライヴ

今井和雄 (g)

ガットギターによる1時間弱のソロ演奏。以前に今井さん、齋藤徹さんがガット弦を使ったとき(広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri)、大きな音も出す広瀬淳二さんが大変だと苦笑していたことがあった。だが、今回は静かで狭い空間での完全ソロ、バランスのことなど考えず集中して聴くことができる。

最初は金属板を弦の内側に挿み、最後は口にくわえた鎖を垂らして弦に絡ませた。プリペアドの効果と、ガット弦そのものの軋みとが縦軸、高速でのフレージングとクラスター生成とが横軸。静かな感覚もあった。

■ 採用されなかった音源の爆音再生

『the seasons ill』には2016年4月7日@新大久保アースダムと9月25日落合Soupの演奏が収録されている。これらを含め多くの今井さんの演奏を録音した松岡真吾さんによれば、没になった音源も共有する価値が大きいものだという。この日選ばれた音源は、同年の1月27日@新大久保アースダムと7月6日@上野ストアハウス。それぞれ30分程の演奏である。

爆音再生とはこのことだ。鼓膜も手に持った紙もびりびりと震える。爆音であるために細かなニュアンスも聴こえてくる。そして文字通り圧倒的。今井和雄のギタープレイとディレイにより生成された音に耳をゆだねていると、ふっと朦朧とする時間が訪れ、気が付くと目の前のスピーカーが地球と月に見えていた。

『the seasons ill』もこのような爆音で聴きたいものである。

■ トーク

doubtmusicの沼田順社長が引き出し役・刺激剤となってのトーク。興味深いことを聴くことができた。

●この一連のディレイ演奏では、今井さんは、音楽よりも音響を追究している。
●今井さんはギターのつもりで弾いているのではなく、フレーズよりも音の塊がどう動いていくかという捉え方である。
●意図的に演奏しているものではあるが、その一方、図らずも出てしまった音も、自らがごくわずかの過去に出した音も含まれており、結果として、ある程度は意図せざるサウンドとなる。リアルな音の流れとは何か、わからなくなってもくる。
●音楽評論とは。
●ノイズとは。
●ノン・イディオマティック・アプローチにより、ノン・イディオムというイディオムになってしまうのだという言説がある。しかし、ことはそう簡単ではないのではないか。つかまるものがないと心もとないものだ。一方、フリージャズにはある種のフォームやテーマがあり、曲として成り立つようになっている。

―――など。この中には大事なキーがたくさんある。

●今井和雄
第三回天下一Buzz音会 -披露”演”- @大久保ひかりのうま(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
今井和雄『the seasons ill』(2016年)
Sound Live Tokyo 2016 マージナル・コンソート(JazzTokyo)(2016年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
坂田明+今井和雄+瀬尾高志@Bar Isshee(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
今井和雄 デレク・ベイリーを語る@sound cafe dzumi(2015年)
今井和雄、2009年5月、入谷
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
バール・フィリップス@歌舞伎町ナルシス(2012年)(今井和雄とのデュオ盤)


大工哲弘@みやら製麺

2017-05-28 12:23:19 | 沖縄

神田小川町のみやら製麺には、職場から近いこともあって、ときどき沖縄そばやチャンプルーの定食を食べに行っている。そこになんと、八重山民謡の巨匠・大工哲弘さんが来るという。CD10枚組(!)の『八重山歌謡全集』を出したばかりであり、記念ライヴということだった。主催はそのオフノート/アカバナーの神谷一義さんと、音楽評論家・プロデューサーの藤田正さん。もちろん駆けつけないわけにはいかない。

大工哲弘さんの演奏を生で観るのは、板橋文夫さんとの共演を新宿ピットインで観て以来、20年ぶりくらいではなかろうか。

この日は八重山の唄ばかりを取り上げるという変わった趣向であり、大工さんが、笛と太鼓のふたりとともに、唄い、爆笑トークを繰り広げた。店内は身動きできないほどの人で一杯。

「新ションカネー」、「与那国の猫小」、「いやり節」、「崎山節」、「ヒヤミカチ節」、「黒島口説」、「トゥバラーマ」。大工さんご自身が入力したというプリントを見ながら観客も唄い、「ゆんた・しょうら」、「こいなユンタ」、「まやーゆんた」、「安里屋ゆんた」。照屋林助の「あやかり節」。山之口貘/高田渡の「生活の柄」。最後は椅子を撤去して、「鳩間の港」などを唄いながら皆がカチャーシー。

鼻にかかったような大工さんの声は、張りもあって、独特で素晴らしいとしか言いようがない。間近で聴けて幸福だった。

大工さんのお話はどれも面白かったのだが、なかでも笑ったのは嘉手苅林昌のエピソード。一緒に与那国に向かう船の中で酒を飲み続ける林昌さん。「どれくらいお酒を飲んだんですか」「一升瓶を横にしてもこぼれないくらい」。

また、八重山の唄は、虐げられた者たちのブルースであり、唄の半分に「うりずん」(陽春)と出てくるのはその裏返しなのだと、大工さんは言った。

終わってから、神谷さんたちと飲みながら、貴重な話をいろいろ聞かせていただいた。竹中労を送る会がきっかけとなって、大工さんとのお付き合いがはじまったのだということ。川下直広さんの新しい演歌集のこと。原田依幸さんのかつての「KAIBUTSU LIVES!」のこと。昨年の「生活向上委員会」のこと。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●参照
板橋文夫『うちちゅーめー お月さま』(1997年)
大工哲弘『八重山民謡集』(1970年代?)