Sightsong

自縄自縛日記

永武幹子+類家心平+池澤龍作@本八幡cooljojo

2018-04-16 07:46:31 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のcooljojo(2018/4/15)。三者三様の個性。

Mikiko Nagatake 永武幹子 (p)
Shinpei Ruike 類家心平 (tp)
Ryusaku Ikezawa 池澤龍作 (ds)

ファーストセットは富樫雅彦の曲をまじえたインプロ。冒頭から、永武さんのいつにない激しさに驚かされた。

どうしても富樫雅彦の音が耳にこびりついているために参照項となってしまい、池澤龍作のドラミングとの違いゆえにそちらに意識が引き寄せられる。ある一定のパターンをもとに大きな円弧を描くような展開において、極めて精緻で研ぎ澄まされた富樫の音に対して、池澤さんのドラミングにはより逸脱があって、それが面白さだった。

何度もインプロ特有の潮目の変化があって、ところどころに、富樫雅彦の美しいメロディが入ってくる。中でも、静かに「Waltz Step」が聴こえてきたときには新鮮だった。このときはピアノ中心だったのだが、それにしても、類家心平のトランペットはいつもながらにエモーショナルであり、朗々と吹くときなどにはなぜか日本の童歌を思い出してしまう。

セカンドセット。「There Is No Greater Love」では前半とはうって変わって永武さんのオールドスタイルの跳ねるようなピアノ。池澤さんのブラシが気持ち良い。「Duke Ellington's Sound of Love」(ミンガス)では類家心平の朗々とした見事なトランペット、「September in the Rain」では池澤龍作の複合リズム。ピアノが途中で「Epistorophy」のように介入する面白さがあった。「石頭歌」(石ころの歌)は永武さんがエリ・リャオに教えてもらった台湾アミ族の歌だそうであり、ここでも、類家さんのレンジが広くウェットな雰囲気が良い。それを引き継いで物語を諄々と語るようなピアノ。ときにマル・ウォルドロンを思わせる同音のアプローチがあった。「Groovin' Parade」(山下洋輔)ではニューオーリンズ的なゴキゲンさ。池澤さんのドラムスは執拗になにかの形を構築していくようで見せ場を作った。アンコールは「I'll Be Seeing You」。

再演があるとまた別の音楽になるに違いない。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●永武幹子
永武幹子+加藤一平+瀬尾高志+林ライガ@セロニアス(2018年)
永武幹子+瀬尾高志+竹村一哲@高田馬場Gate One(2017年)
酒井俊+永武幹子+柵木雄斗(律動画面)@神保町試聴室(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)
永武幹子+瀬尾高志+柵木雄斗@高田馬場Gate One(2017年)
MAGATAMA@本八幡cooljojo(2017年)
植松孝夫+永武幹子@北千住Birdland(JazzTokyo)(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)

●類家心平
東京ザヴィヌルバッハ・スペシャル@渋谷The Room(2018年)
TAMAXILLE『Live at Shinjuku Pit Inn』(2017年)
森山威男3Days@新宿ピットイン(2017年)
ナチュラル・ボーン・キラー・バンド『Catastrophe of Love Psychedelic』(2015-16年)
RS5pb@新宿ピットイン(2016年)
白石雪妃×類家心平DUO(JazzTokyo)(2016年)
白石雪妃+類家心平@KAKULULU(2016年)
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
板橋文夫『みるくゆ』(2015年)
森山・板橋クインテット『STRAIGHTEDGE』(2014年)


有明のぶ子+高田ひろ子+桜井郁雄@本八幡cooljojo

2018-04-15 08:11:09 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のcooljojo(2018/4/14)。

Nobuko Ariake 有明のぶ子 (vib)
Hiroko Takada 高田ひろ子 (p)
Ikuo Sakurai 桜井郁雄 (b)

なんでもずいぶんと久しぶりの高田ひろ子さんとの共演であり、ピッチを合わせるために、30 kgもあるヴァイブの上の音盤を電車で運んできたそうである。ピアノとヴァイブは音が重なるようでいて、周波数の領域も、響かせ方も、また音色も互いに異なっているため、お互いの世界を引き立てるような感覚になった。有明さんはペダルでかなり響きを残したし、その耳でピアノを聴くと丸いものに感じられてまた面白い。ここに桜井さんのベースが加わり、色が異なる3つの雲が近づいたり重なったり隠れたりするようで。

「Spring is Here」、「Our Spanish Love Song」(ヘイデン)に続き、高田さんが生徒さんの結婚を祝うために作ったというオリジナル「Kaori」。ベースソロにヴァイブ、ピアノのふたりが入るところの気持ちよさがあった。「How Do You Keep Music Playing?」(ルグラン)では、ピアノからヴァイブへのバトンタッチがとてもスムーズ。ファーストセットの最後は「Falling Grace」(スワロウ)。最初は有明さんのふわふわと浮かぶようなヴァイブから始まり、ベースとピアノが入ってきてサウンドが地に足を着けた。いかにもスワロウの甘酸っぱいような妙な曲であり、そのせいか、誰かのソロの間は伴奏があったとしても本人にスポットライトが当たっているような不思議さがあった。高田さんのピアノはここでは力強いものだった。

セカンドセットは引き続きスワロウの「Wrong Together」。続いて、サンバの「Little Train」では桜井さんが顔をしかめながらも愉し気にノリノリのベースソロを聴かせた。ブラジル感のままに「サウダージ・ダ・バイーア」、高田さんのリズムを跨って弾くピアノ。「Blue or Red」(高田)では、ヴァイブとピアノとのゆっくり目のユニゾンが実に心地いいものだった。そして「Stella by Starlight」、有明さんが散らしたヴァイブの音色が次第に尖ってくるのも良かったし、旋律のつらなりを長く長く作りだす高田さんのピアノソロも素晴らしかった。サウンドを駆動させる役割のベースとピアノとが見事に連動した。アンコールは「Nearness of You」。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●高田ひろ子
高田ひろ子+廣木光一@本八幡cooljojo(2017年)
安ヵ川大樹+高田ひろ子@本八幡Cooljojo(2016年)
高田ひろ子+津村和彦『Blue in Green』(2008年)


北川潔『Turning Point』

2018-04-14 09:19:11 | アヴァンギャルド・ジャズ

北川潔『Turning Point』(KO Records、2017年)を聴く。

Kiyoshi Kitagawa 北川潔 (b)
Mayuko Katakura 片倉真由子 (p)
Shun Ishiwaka 石若駿 (ds)

これまでに片倉真由子のピアノトリオを2枚聴いた(『Inspiration』2009年、『Faith』2010年)。そのいずれにもカール・アレンが参加しており、シャープなドラミングが片倉真由子のびしりと筋の入ったピアノにマッチしていた。一方本盤ではドラマーは石若駿。軽快で引きだしの多いスタイルで悪くない。

そして北川潔。さすが、ケニー・ギャレットの傑作『Triology』において、シンプルゆえになおさら実力を知らしめた人である。ここでもベーシストが主役のサウンドになっており、トリオをぐいぐい引っ張っている。6月のレコ発ツアーに行きたいなあ。

●石若駿
アーロン・チューライ@新宿ピットイン(2016年)


DDKトリオ+齋藤徹@下北沢Apollo

2018-04-11 23:49:06 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のBar Apolloにおいて、DDKトリオ(2018/4/10)。齋藤徹さんがゲストとして加わった。

Jacques Demierre (p)
Axel Dorner (tp)
Jonas Kocher (accordion)
Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)

2日前のFtarriにおいては鍵盤の右端を鳴らして始めたジャック・ディミエール(そして最後には左端で締めた)。この日は、初めに鍵盤の前面を左右に撫でてリズムを創出した。Ftarriと同じくアップライトピアノの内部をむき出しにして、可動部や弦を撫で、弾く。弦に口を近づけて息を吹きかけて音を出しもする。また、ペダルにより内部をパーカッションとして使い、いきなり祝祭感が訪れる。驚くべき人である。グランドピアノの場合にどのような振る舞いを見せるのか興味もある。

アクセル・ドゥナーは素晴らしいテクニックで、循環呼吸にて音を鳴らしたり息を鳴らしたり。あらゆることができるのだろう、視ているだけで惚れぼれしてしまう。そしてヨナス・コッハーは、鋭く折れようもない単音を残響として鳴らし、ときに鋭角的に大きな音を出して斬り込んてゆく。

かれらの演奏はひとつひとつが選ばれ、同時に遊んでもいた。無音の時間が多く作られたのだが、そこには、耐える感覚も苦しい感覚も、また作為的な感覚も皆無だった。

セカンドセットには齋藤徹さんが入った。ファーストセットのあと、抽出して研ぎ澄まされた音のビーム群に対してテツさんの幅広い音の叢が果たしてマッチするのだろうかと思えたのだが、それはくだらぬ想像だった。ずざざというノイズと倍音がテツさんのコントラバスから発せられると、DDKの3人は、執拗に和音、倍音でまた異なるサウンドを創り出した。またその結果なのか、無音の時間は少ない構造となった。さすがだった。

ディミエールの提案で、短い追加演奏がなされた。小さい何者かの種が急成長して破裂に至るようなイメージが浮かんだ。テツさんは足踏みもした。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4

●アクセル・ドゥナー
DDKトリオ@Ftarri(2018年)
アクセル・ドゥナー+村山政二朗@Ftarri(2018年)
PIP、アクセル・ドゥナー+アンドレアス・ロイサム@ausland(2018年)
「失望」の『Lavaman』(2017年)
「失望」の『Vier Halbe』(2012年)
アクセル・ドゥナー+オッキュン・リー+アキム・カウフマン『Precipitates』(2011、-13年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbestandige Zeit』(2008年)
『失望』の新作(2006年) 

●ジャック・ディミエール
DDKトリオ@Ftarri(2018年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)

●ヨナス・コッハー
DDKトリオ@Ftarri(2018年) 

●齋藤徹
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
2017年ベスト(JazzTokyo)
即興パフォーマンス in いずるば 『今 ここ わたし 2017 ドイツ×日本』(2017年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
長沢哲+齋藤徹@東北沢OTOOTO(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+沢井一恵『八重山游行』(1996年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 


DDKトリオ@Ftarri

2018-04-08 23:21:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋のFtarriで、ようやく来日ツアー中のDDKトリオ(2018/4/8)。

Jacques Demierre (p)
Axel Dorner (tp)
Jonas Kocher (accordion)

3人のファミリーネームの頭文字を取ってDDK。ヨナス・コッハーははじめて聞く名前である。

皆が息を殺す中で始まったわけだが、ジャック・ディミエールは鍵盤右端のキーを右手の小指で叩いた。それを皮切りに繰り広げられたインプロは、文字通り驚くべきものだった。

アクセル・ドゥナーは息のみの放出においても循環呼吸を用いる。管を鳴らし始めてなぜ倍音が出ているのかと不思議に思ったら、それはコッハーの音と重なっているのだった! もちろんそれだけではない。かれの指の動きやブレスのひとつひとつは何かと結びついており、つまり、カタルシスまかせではない。それを平然とやってのける凄みがあるのだが、それでも、空を飛んだり鳥の声だったり蒸気機関だったりというイメージ喚起力はあった(イメージを俗なものにしているのは聴く側かもしれない)。コッハーの音との相互作用には面白いものがあって、アコーディオンらしからぬ単音のロングトーンに対してドゥナーが合わせてゆく音は、意図的に微妙にピッチがずれ、サウンドの尻を浮かせ続けた。

コッハーの集中力には驚いた。アコーディオンは震える和音によって俗に堕すことが効果的な楽器に違いない。しかし、かれはそれに断固として近づこうとしない。プレイ中はずっと目を瞑り、ときに楔を打ち込み、ときに蛇腹で風を創り出し(それも偶然に頼らない)、ときに楽器を左右に揺さぶりサウンドも力で揺さぶった。面白いことは、ディミエールやドゥナーの響きの前か後に、気が付いたらコッハーが響きを引き受けていることだった。

もっとも圧倒されたのはディミエールである。かれは鍵盤やピアノの弦を左右へ撫でる。その振幅の大きさも強さもいちいち想像を超える。また、ペダルで響きを大きくコントロールするだけでなく、ペダルをパーカッシヴに使いもする。撫でる行動は指だけではない。手の側面、手の甲(!)、拳骨、腕を公平に使い、弦はこじり、鍵盤は前側を爪でひっかけもする。弦を押さえて鍵盤の音を殺しもする。これらは惰性や勢いとは無縁であって、なにかを始めるときには蛮勇という言葉が頭に浮かぶ。そして最後は、鍵盤の左端のキーを叩いた。明らかにはじまりかたを意識した構造的なものだった。おそらくはそれに対するコッハーのリスペクトとして、簡単には終わらせず左指に力が入り、またディミエールも弦に近づけた指を空に浮かせていた。しかし、音そのものは出さず、終わった。

●アクセル・ドゥナー
アクセル・ドゥナー+村山政二朗@Ftarri(2018年)
PIP、アクセル・ドゥナー+アンドレアス・ロイサム@ausland(2018年)
「失望」の『Lavaman』(2017年)
「失望」の『Vier Halbe』(2012年)
アクセル・ドゥナー+オッキュン・リー+アキム・カウフマン『Precipitates』(2011、-13年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbestandige Zeit』(2008年)
『失望』の新作(2006年) 

●ジャック・ディミエール
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)


クリス・デイヴィス+エリック・レヴィス@Body & Soul

2018-04-08 00:12:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

南青山のBody & Soulで、今回2度目のクリス・デイヴィスとエリック・レヴィスのデュオ(2018/4/7)。

Kris Davis (p)
Eric Revis (b)

最初はセロニアス・モンク「Ask Me Now」からの2曲、どうも物足りない。しかし3曲目になり、粘着テープを使ってのプリペアド、途中でいきなりデイヴィス、レヴィスともに爆発する。この極端な展開を受けとめられるふたりのキャパシティがあってこその面白さである。5曲目はやはりモンクの「Evidence」であり、レヴィスのウォーキングベースも、低音をこけおどしでなく使ったデイヴィスともに見事。カーラ・ブレイの「Sing Me Softly of the Blues」では、デイヴィスは長いイントロのあと悠然と主旋律を零すように弾いた。

セカンドセット。2曲目でふたたび粘着テープをピアノ内の弦に貼り、板で鍵盤を琴のように弾く。こんなことができるのかという驚きがある。4曲目のジュリアス・ヘンフィルの曲になり、レヴィスはやっと弓で弾きはじめた。最後にテープを剥がす効果とともにレヴィスが音を発し、場が笑いに包まれる。そして小品が続き、アンコールはスタンダード「My Old Flame」。キース・ジャレットの演奏がそうであったように、和音をやさしく積み重ねていく短い演奏だった。

それなりに見どころがあったのだが、新宿ピットインでの演奏ほどには圧倒されない。スタイルや選曲をハコに合わせたのだろうか。しかし、日本だからといって「ジャズ」寄りにしたのだとすれば、それは間違った選択だっただろう。面白くはあってもアドレナリンは出なかった。

●クリス・デイヴィス
クリス・デイヴィス+エリック・レヴィス@新宿ピットイン(2018年)
クリス・デイヴィス『Duopoly』(2015年)
イングリッド・ラブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
マックス・ジョンソン『In the West』(JazzTokyo)(2014年)
イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)
イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
スティーヴン・ガウチ+クリス・デイヴィス+マイケル・ビシオ『Three』(2008年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)

●エリック・レヴィス
クリス・デイヴィス+エリック・レヴィス@新宿ピットイン(2018年)
オリン・エヴァンス+エリック・レヴィス@新宿ピットイン(2016年)
カート・ローゼンウィンケル@Village Vanguard(2015年)
エリック・レヴィス『In Memory of Things Yet Seen』(2014年)


ギュンター・ハンペル『Heartplants』

2018-04-06 07:52:44 | アヴァンギャルド・ジャズ

ギュンター・ハンペル『Heartplants』(MPS、1965年)を聴く。

Gunter Hampel (vib, fl)
Manfred Schoof (tp)
Alexander von Schlippenbach (p)
Buschi Niebergail (b)
Pierre Courbois (ds)

1965年といえば、ESPの名盤『Music from Europe』が吹き込まれた前年である。作曲も構成も、ソロの音色も、どうしてもヨーロッパ的。最後の曲「Our Chant」におけるハンペルのヴァイブにバップ色があるけれど、そのくらいのものだ。

マンフレート・ショーフがその雰囲気の中で吹くロングトーンも、暗闇の中から霧が少し切れたように現れるハンペルのヴァイブも見事。そのヴァイブの尖った音色があるために、尖っているはずのシュリッペンバッハのピアノが丸くサウンドを覆うように聴こえるのだから不思議なものである。

●ギュンター・ハンペル
セシル・テイラーのブラックセイントとソウルノートの5枚組ボックスセット(1979-86年)
ギュンター・ハンペルとジーン・リーの共演盤
(1968、69、75年)


クリス・デイヴィス+エリック・レヴィス@新宿ピットイン

2018-04-06 00:35:04 | アヴァンギャルド・ジャズ

新宿ピットインで、クリス・デイヴィスとエリック・レヴィスのデュオ(2018/4/5)。

↑タイポだらけ

Kris Davis (p)
Eric Revis (b)

最初のアンドリュー・ヒルの曲において、レヴィスがかすかな音から次第に音量を上げる。弦の響きのマッスがあるからこそ、かすかな音が際立つ。一方のデイヴィスは分散和音など工夫しながら雰囲気を創り上げてゆく。

レヴィスのベースはパワーだけではないし、また上手いだろうと言わんばかりの弦だけの増幅でもない。デイヴィスの内部奏法の変化に呼応して、コントラバスの弦がかなり強く張られているはずなのに、浮遊したりたわんだりするような柔軟性もみせた。また、ウォーキングベースは当然のように安定感も強靭さもあるし、歌うフレージングがなにより素晴らしい。チャーリー・ヘイデンのように同音を続けつつグラデーションと残響を創り出す時間もあった。

この剛柔とりまぜたレヴィスのベースに対して、デイヴィスは隙間を縫ってはあらゆるアプローチを提示する。それは極力偶然に頼らないように聴こえた。内部奏法においてもそうであり、同時に鍵盤を弾くところなどとても巧妙。ファーストセットの終盤に、デイヴィスのタッチが細かく柔らかく、猫やミシャ・メンゲルベルクを思わせる感覚になってきたと思ったら、程なくして、エリック・ドルフィーの「Miss Ann」のフレーズに化けた。それも含め、デイヴィスはやりたい放題だ。

セカンドセットでは、最初にジュリアス・ヘンフィルの曲。テープを内部の弦に貼りつけてのプリペアド演奏も、やはり偶然の力に頼ったものではない。ここまで確信に満ちたピアニストだったとは驚きだ。4年前に観たときはそこまでは圧倒されなかった。最後のアンコール曲は、セロニアス・モンクの「Trikle Tinkle」だったか、愉しそうに音でレヴィスと突っつき合う余裕をみせた。

●クリス・デイヴィス
クリス・デイヴィス『Duopoly』(2015年)
イングリッド・ラブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
マックス・ジョンソン『In the West』(JazzTokyo)(2014年)
イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)
イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
スティーヴン・ガウチ+クリス・デイヴィス+マイケル・ビシオ『Three』(2008年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)

●エリック・レヴィス
オリン・エヴァンス+エリック・レヴィス@新宿ピットイン(2016年)
カート・ローゼンウィンケル@Village Vanguard(2015年)
エリック・レヴィス『In Memory of Things Yet Seen』(2014年)


キース・ジャレット『Eyes of the Heart』

2018-04-04 00:16:14 | アヴァンギャルド・ジャズ

キース・ジャレット『Eyes of the Heart』(ECM、1976年)。

Keith Jarrett (p, ss, osi ds, tambourine)
Dewey Redman (ts, tambourine, maracas)
Charlie Haden (b)
Paul Motian (ds, perc)

70年代のキース・ジャレットは好きだし、アメリカン・カルテットも好きだし、特にデューイ・レッドマンはいつも最高である。・・・ではあるのだが、このライヴ盤は聴いていなかった。ティム・バーンがツイッターで繰り返し、本盤におけるデューイのソロを絶賛していたりもする。大損失だと気づき慌てて調達した。

同時期のアメリカン・カルテットの作品には、同じECMの『The Survivors' Suite(残氓)』があるが、それと同様に抑制気味に劇的なものを秘めた雰囲気である。人間くさいフォークの要素もある。キースのピアノは過激な美しさを湛えており、抑えたところでぼろぼろと美爆弾がこぼれてくる。いかに耽美的なものを標榜したところでこのキースには並ぶことはできないに違いない。

もちろんデューイ・レッドマンもいつものように無二の音を出しているのだが、やはりここはキースが主役。

●キース・ジャレット
キース・ジャレット『North Sea Standards』(1985年)
キース・ジャレット『Standards Live』(1985年)
ピーター・ブルック『注目すべき人々との出会い』、クリストのドキュ、キース・ジャレットのグルジェフ集 (1980年)
キース・ジャレット『Staircase』、『Concerts』(1976、81年)
キース・ジャレットのインパルス盤(1975-76年)
キース・ジャレット『Arbour Zena』(1975年)
キース・ジャレット『Solo Performance New York '75』(1975年)
キース・ジャレット『The New York Concert』(1975年)
キース・ジャレット『The Bremen Concert』(1975年)
70年代のキース・ジャレットの映像(1972、76年)
1972年6月のキース・ジャレット・トリオ(1972年)
キース・ジャレット+チャーリー・ヘイデン+ポール・モチアン『Hamburg '72』(1972年)
キース・ジャレット『Facing You』(1971年)


ジーン・ジャクソン(Trio NuYorx)『Power of Love』(JazzTokyo)

2018-04-04 00:03:32 | アヴァンギャルド・ジャズ

偉大なドラマー、ジーン・ジャクソンの初リーダー作(!)は、Trio NuYorx名義でのピアノトリオ作品『Power of Love』(Whirlwind Recordings、2017年)。「JazzTokyo」誌にレビューを寄稿した。

>> #1504 『Gene Jackson Trio Nu Yorx / Power of Love』

Gene Jackson (ds)
Gabriel Guerrero (p)
Carlo De Rosa (b)

●ジーン・ジャクソン
オンドジェイ・ストベラチェク『Sketches』(2016年)
レイモンド・マクモーリン@Body & Soul(JazzTokyo)(2016年)
及部恭子+クリス・スピード@Body & Soul(2015年)
松本茜『Memories of You』(2015年)
デイヴ・ホランド『Dream of the Elders』(1995年)


「JazzTokyo」のNY特集(2018/4/1)

2018-04-03 23:53:41 | アヴァンギャルド・ジャズ

「JazzTokyo」誌のNY特集、Jazz Right Now(2018/4/1)。

■ 連載第29回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 パトリック・シロイシ『Tulean Dispatch』

DJ/ライターのガブリエル・ジャーメイン・ヴァンランディンガム-ダンによる、パトリック・シロイシ『Tulean Dispatch』評。ずいぶんと個人の印象に寄ったレビューを書く人だ。同盤はわたしもはじめて聴いたがとてもユニーク。

■ 蓮見令麻さんの連載 ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま 第22回 ラン・ブレイク〜独創と孤独を泳ぐピアニスト〜<後編>

この人も変わっている、ラン・ブレイク。インタビューを通して読むと、インスピレーションの湧くままに話があちこちに飛んでいって面白い。

●Jazz Right Now
「JazzTokyo」のNY特集(2018/1/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/12/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/9/30)
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イクエ・モリ『Obelisk』

2018-04-03 00:05:28 | アヴァンギャルド・ジャズ

イクエ・モリ『Obelisk』(Tzadik、2017年)を聴く。

Sylvie Courvoisier (p)
Okkyung Lee (cello)
Jim Black (ds)
Ikue Mori (electronics)

このいかついメンバーから尖がって突き抜けたサウンドを想像したのだが、実はそうでもない。むしろ逆であり、親密感さえ漂っている。

イクエさんのファンタジックな物語世界があって、みんなその中で妖精を演じているような按配だ。これはこれでいいのだが、やはり、オッキュン・リーであれば恐怖を覚えるほどの弦のしなり、ジム・ブラックであればガジェット的に走りぬける有様、シルヴィー・クルボアジェであれば結晶の内面反射を想像するような硬いピアノ、それらが衝突し化学変化を起こすサウンドを聴きたい。というのはフリージャズに毒された見方か。

●イクエ・モリ
イクエ・モリ+クレイグ・テイボーン@The Drawing Center(2017年)
クレイグ・テイボーン+イクエ・モリ『Highsmith』(2017年)
エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
シルヴィー・クルボアジェ+マーク・フェルドマン+エヴァン・パーカー+イクエ・モリ『Miller's Tale』、エヴァン・パーカー+シルヴィー・クルボアジェ『Either Or End』(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
イクエ・モリ『In Light of Shadows』(2014年)


『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン

2018-04-02 01:10:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

阿佐ヶ谷のヴィオロン(2018/4/1)。

音花郁英 (詩朗読, p)
照内央晴 (p)
森下由貴 (vln)
加藤綾子 (vln)

石内矢巳さんという詩人がいた。2015年に亡くなり、その詩を読む会というものが開かれている。この日は4回目だという。

音花郁英さんが朗読し、彼女が教える洗足学園のつながりで卒業したばかりの森下由貴さん、加藤綾子さんというヴァイオリニストふたりが参加、そして即興ピアノの照内央晴さんも加わる。このような形での即興世界への浸食はとても面白い。

石内矢巳の詩はこの日はじめて聴いたのだけれど、感覚の一部が増幅され、外に放出され、いつの間にか宇宙的にさえなっているような新鮮なものだった。「いまここに呼吸の音がする」と読まれた直後に森下さんのヴァイオリンが入り、また、「かすかな希望の脈拍とともに」と読まれた直後に照内さんのピアノが入る。まさにその呼吸や脈拍をメンバーで共有しているのだろうか。照内さんのピアノには、音花さんの声とシンクロしてかけのぼるようなときもあった。

最初のセットでは、加藤さんはピチカートでこの音世界に加わった。そのはじく音はピアノの鍵盤の音と、また森下さんの弓弾きの音と共存し、茶色く薄暗いヴィオロンの中で、不穏な雰囲気や、妖しさや、狂気も創出した。そこに、「永遠などないのだ」といった言葉のひとつひとつが毎回驚きとともに撒かれ、消えてゆく。

ピアノの低音と加藤さんのヴァイオリンとが主導して音楽を駆動する時間も、ふたりのヴァイオリンがピチカートではじきあい星のきらめきを見せる時間もあった。「はじき」はときにピアノとともに相互の重力で運動する三体問題となった。

セカンドセットでは、演奏者たちを上に見上げる中の席から観た。以前に、トランペットのクレイグ・ペデルセンさんが小さい欧州の劇場のようだと説明してくれたことがあったが、確かにヴィオロン独特のものであり、音が周囲から同じ存在感をもって迫ってくる。最初は森下さんが短いピッチのフラグメンツを放ち、加藤さんが長いトーンで雰囲気を創った。ここに「晴れ、また、くもり くもり、また、晴れ」といった言葉が介入し、ひとつのドラマを体感するようだった。そしてまた、アンドロメダとの言葉もあり、意識の領域が宇宙へと拡がり飛んでゆく。

ふたりのヴァイオリンの軋みが交互にあらわれ、ピアノとともに交錯し、重なりあう。倍音も不協和音も実に豊かで、その場限りのものであり素晴らしい。このとき音楽を形成するなにものかの意識はどこにあるのだろうと思ってしまう。終盤に、また意識の妙なところを突かれる「実現しなかった世界の燐光」という言葉があった。

※詩の言葉は聴きとりによるものでオリジナルとは異なります。

※次回は2018/9/27(木)とのこと。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●照内央晴
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)

●加藤綾子
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)


MMM@稲毛Candy

2018-04-02 00:05:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

はっと気がつくと、昼に稲毛のCandyで観たかったライヴがある。そんなわけで慌てて足を運んだ(2018/4/1)。

MMM:
Mizuki Wildenhahn (percussive dance / from Hamburg)
Natsuki Tamura 田村夏樹 (tp, perc)
Satoko Fujii 藤井郷子 (p)
Takashi Itani 井谷享志 (perc)

井谷さんが準備したパーカッションは随分とシンプルである。ご本人曰く、シンバルとカホンだけでも良かったのだけど、と。そのカホンにはバスドラのようにペダルで叩くような仕掛けがある。さてどうなるか。

この日、出演予定だった詩人の三角みづ紀さんが体調不良で飛んでくることができず、田村夏樹さんが彼女の詩を朗読した。ご本人だったらどうだったのかはわからないのだが、田村さんのキャラでユーモラスさが付け加わった。

その朗読からはじまった。母、真空管、有る無し。そしてミズキ・ヴィルデンハーンさんが踊りはじめる。確かにパーカッシヴでもあり、また、身体の端々にまでぴんと気が張り詰めている。その緊張感がいきなり支配する中、とつぜん、井谷さんの叩きが楔のように入り驚く。やがて田村さんが擦るようなトランペットを吹き、藤井さんが内部奏法から鍵盤へとシフトする。その後の田村さんのトランペットはさすがの輝きである。

ミズキさんは布を巻いて舞い、また詩に戻る。旅、地図、列車。途中で「名前は呼ばないで」とあったように、旅とは匿名性を意味するものでもあったに違いない(「そう、わたしはこれから地図を描く」)。井谷さんはボディパーカッションを見せた。ミズキさんは両足で飛び跳ね、間もなくして、やや鎮まった空気の中で足踏みのひとつひとつを響かせた。田村さんは玩具でさまざまな音を出し、抽象と具象とをつなげてみせた。藤井さんは常にミズキさんを睨み、音楽とこの動きとを有機的につなげてゆく。

ふたたび、ミズキさんが布を巻きひらひらとさせ、ステップを踏む。それはトランペットともパーカッションとも同調しまた離れる。疾走だけではない。誰からともなく、柔軟にぐにゃりと曲がっていくような世界も創出された。そして3人の音楽が力を増してきた。

アンコールでは、藤井さんが主導するようにあるパタンが共有され、そこから発展し、そして見事なカホンの演奏があった。最初から最後まで、ミズキさんの漲る意思が身体の動きとなって現れていた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●参照
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス
(2017年)
This Is It! @なってるハウス(2017年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)
藤井郷子『Kitsune-Bi』、『Bell The Cat!』(1998、2001年)


メアリー・ハルヴァーソン『Paimon: Book Of Angels Volume 32』

2018-04-01 11:44:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

メアリー・ハルヴァーソン『Paimon: Book Of Angels Volume 32』(Tzadik、2017年)を聴く。

Mary Halvorson (g)
Miles Okazaki (g)
Drew Gress (b)
Tomas Fujiwara (ds)

想像以上なのか想像通りなのか判断できないのだが、確かに面白い。クレズマーや中東の音階で、メアリー・ハルヴァーソンが過激に周波数をぐいぐいずらし、時空間を歪ませる。マイルス・オカザキとどっちがどっちだという時間もあり、かれらが確信犯的な追いかけっこをするのも運命的というか悪夢的というか。

トマ・フジワラのドラムスにジョーイ・バロンを感じてしまったのだが、よく考えてみると、マサダの記憶に引きずられてのことか。

●メアリー・ハルヴァーソン
トム・レイニー・トリオ@The Jazz Gallery(2017年)
トマ・フジワラ『Triple Double』(2017年)
メアリー・ハルヴァーソン『Away With You』(2015年)
イングリッド・ラブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
『Illegal Crowns』(2014年)
トマ・フジワラ+ベン・ゴールドバーグ+メアリー・ハルヴァーソン『The Out Louds』(2014年)
メアリー・ハルヴァーソン『Meltframe』(2014年)
アンソニー・ブラクストン『Ao Vivo Jazz Na Fabrica』(2014年)
イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
『Plymouth』(2014年)
PEOPLEの3枚(-2005、-07、-14年)
トム・レイニー『Hotel Grief』(2013年)
チェス・スミス『International Hoohah』(2012年)
イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
イングリッド・ラブロック『Zurich Concert』(2011年)
メアリー・ハルヴァーソン『Thumbscrew』(2013年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Mechanical Malfunction』(2012年)
ステファン・クランプ+メアリー・ハルヴァーソン『Super Eight』(2011年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Electric Fruit』(2009年)
アンソニー・ブラクストン『Trio (Victoriaville) 2007』、『Quartet (Mestre) 2008』(2007、08年)

●ジョン・ゾーン
ジョン・ゾーン『Interzone』 ウィリアム・バロウズへのトリビュートなんて恥かしい(2010年)
クリスペル+ドレッサー+ヘミングウェイ『Play Braxton』(2010年)
ジョン・ゾーン『Spy vs. Spy』(1988年)
ミッキー・スピレイン、ジョン・ゾーン(1987年)
ブッチ・モリス『Current Trends in Racism in Modern America』(1985年)
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)
『Improvised Music New York 1981』(1981年)
ロイ・ローランド『Mickey Spillane / The Girl Hunters』(1963年)