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「美貌の人」中野京子

2018年07月04日 20時46分06秒 | 読書(絵画)


「美貌の人」中野京子

中野京子さんの絵画エッセイ。
絵画で扱われた美貌の女性、男性が取り上げられている。
下の絵はマグダラのマリア。
クリヴェッリ作品。

 
Saint Maria Magdarena,Amsterdam


下の絵は「スザンナと長老たち」

「スザンナ」という名はヘブライ語の「百合」からきている。スザンヌ、シュザンヌ、スーザン……どれも語源は同じだ。そして百合といえば、真っ先に思い出されるのが「受胎告知」の場。大天使ガブリエルが処女マリアに捧げていたのがこの花だった。当然ながらシンボル的にも、「純潔」「無垢」「貞節」となる。この絵のヒロインがどういう人間であるかを、名によって知らしめているのだ。

【ネット上の紹介】
絵画のなかの美しいひとたちは、なぜ描かれることになったのか。その後、消失することなく愛でられた作品の数々。本書では、40の作品を中心に美貌の奥に潜む光と影を探る。
第1章 古典のなかの美しいひと(プロセルピナ―ロセッティ
アポロンとマルシュアス―ペルジーノ ほか)
第2章 憧れの貴人たち(侯爵夫人ブリジーダ・スピノラ=ドーリア―ルーベンス
デヴォンシャー公爵夫人―トマス・ゲインズバラ ほか)
第3章 才能と容姿に恵まれた芸術家(シャネル―マリー・ローランサン
凸面鏡の自画像―パルミジャニーノ ほか)
第4章 創作意欲をかきたてたミューズ(商人の妻のティータイム―クストーディエフ
ブージヴァルのダンス―ルノワール ほか)


「印象派で「近代」を読む-光のモネから、ゴッホの闇へ」中野京子

2011年06月24日 23時34分55秒 | 読書(絵画)


「印象派で「近代」を読む-光のモネから、ゴッホの闇へ」中野京子

タイトルは硬いけど、とても面白かった。
(タイトルどおり、「近代」が見えてくる)
それだけでなく、いろんな知識が増えて楽しくなる。
(興味深い箇所に付箋を貼りながら読んだけど、もう付箋だらけ!)

例えば、次の絵「シャルパンティエ夫人と子どもたち」。
典型的なブルジョワの邸宅。右隅に東洋風の小物が飾られている。
真ん中の少女は、この家の長男(!)である。
私は、てっきり次女だと思っていた。(それより、犬が「重たいやんけ!」と怒ってる?)シャルパンティエ夫人とその子どもたち

次の絵は、「グランド・ジャット島の日曜日の午後」。
右端の男女は夫婦と思っていた。
実際は、ドゥミ・モンディーヌ(高級娼婦)であろう、と。


さて、次が「エトワール」。
これは、「怖い絵」でも触れてあったけど、左端に黒い燕尾服の紳士がいる。
踊り子のパトロンであろう、と。
次のように書かれている。(P190)
バレエはオペラの添え物でしかなく、踊り子は売春婦と同義であり、プリマとして踊ったからといって実力があるとは限らず、単にパトロンの後押しによったのかもしれない、そういった歴史的事実です。


ドレフュス事件について書かれている箇所も面白かった。
自分で読んでみて。→(P72-75)

P108
日本には「清貧」という言葉があり、貧困をあまり恥と考えません。それについてはすでに戦国時代のイエズス会ヴァリニャーノ(イタリア人)が、ヴァチカンへこう報告しています。「貧困は日本人を罪悪感や卑しさへと駆り立ててない」。逆に言えば、西欧人は貧困によってそうしたものへ駆り立てられる、ないし駆り立てられると信じられている、ということになりましょう。

P116
ドガ「カフェにて」だけど、女性の前にあるのが、あの有名な「アブサン」。
二十世紀初頭に、製造販売禁止、ニガヨモギを主に、いろんな香草のエキスを混ぜたリキュールで、いわばアルコールと麻薬を混ぜたようなもの。強烈な幻覚作用があり、ゴッホとロートレックがアブサン中毒。(ロートレックは精神病院に入院し、ゴッホは左耳を切断した)
ファイル:Edgar Germain Hilaire Degas 012.jpg

次いってみましょう。→(P117)
「ナナ」と言っても、矢沢あい作品ではない。
ナナというのは、固有名詞であると同時に、日本語でいう(少し古い言い回しかもしれませんが)「かのじょ」、もっと露骨には「愛人」の意味でも使われる言葉です。
シルクハットの紳士の目の前で、下着姿のまま堂々とお出かけ用の化粧をしているのですから、これはもう見間違いようもなく「囲われた愛人」ですし、豪華な邸は彼によって与えられたもの。このナナは高級娼婦、いわゆる「ドゥミ・モンディーヌ」とわかります。
ドゥミ・モンディーヌというのは、ドゥミ・モンド(=半社交界)に生きる女性のことを指します。上流階級人士には、半分しか入れない。パトロンと一緒なら入れるが、ひとりだと出入り不能。



以上、簡単に(ごく一部)紹介した。
興味が湧いたら読んでみて。
これはオススメ。

PS
日本では印象派が大流行。
毎年印刷されるカレンダーを見よ・・・印象派ばかりではないか!
この本を読めば、理由が(結果として)解る。
(あとがきだけ読んでも分かるけど・・・P210-211、P186)

【ネット上の紹介】
十九世紀後半のフランスに起こった絵画運動で、現代日本でも絶大な人気を誇る「印象派」。“光”を駆使した斬新な描法が映し出したのは、未だ克服せざる「貧富差」による“闇”であった。マネ、モネ、ドガからゴッホまで、美術の革命家たちが描いた“近代”とは―。

 

[目次]

第1章 新たな絵画の誕生;第2章 「自然」というアトリエ;第3章 エミール・ゾラをめぐる群像;第4章 キャンバスに映されたパリ;第5章 都市が抱えた闇;第6章 ブルジョワの生きかた;第7章 性と孤独のあわい;第8章 印象派を見る眼