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「現代ヒマラヤ登攀史」池田常道

2016年05月29日 08時58分17秒 | 読書(山関係)


「現代ヒマラヤ登攀史8000メートル峰の歴史と未来」池田常道

新書で285ページ、コンパクトな割に読むのに時間が掛かった。
それもそのはず。
8000m峰のデータがびっしり詰まっている。
資料だけでない、そこからドラマが見えてくる。
生と死のドラマである。

P284
 本書は、隔月刊誌「岩と雪」の98号(1983年3月)から112号(1985年10月)まで、112回にわたる連載記事に大幅な加筆訂正を施したものである。
(中略)
 改めて『現代ヒマラヤ登攀史』を書く気にさせたのは、ネット時代のヒマラヤ情報が数字ばかりで語られる傾向が強いからである。それぞれの山には尊重されるべき歴史があり、現代の8千メートル峰登山者もその土台の上に自分たちの登山があることをもっと意識してもらいたい。昨今続出している頂上の取り違えなど、無知をさらけ出す以外の何物でもない。ガイドやシェルパが設置した固定ロープの終点を「頂上」と解して、誇らしげにブログに発表するなど、ほとんど想像を絶する。

新しい情報も盛り込まれている。
P196
 2013年6月の夜半、ディアミール側ベース・キャンプがパキスタン・タリバン運動(TTP)の武装集団に襲われ、登山者10人と現地スタッフ1人が銃撃されて死亡するという事件が起こった。TTPの声明では、米軍の無人攻撃機による同派幹部殺害に対する報復だと言うが、犠牲になった外国人の国籍はウクライナ、中国、スロヴァキア、リトアニア、ネパールで米国人はいなかった。襲撃者はいちいち登山者のパスポートを確認して国籍を確かめ「ビン・ラーディンの仇」と呼号していたという。

なお、この事件については「ロクスノ」#061,P94,ON THE SCENEに詳しい。
…・こちらも単行本化されることを希望する。
海外に行く限り、現地の政情、日本との関係をきちんと把握する必要がある。
「登りたい」って思いだけで登れる訳ではない。
登山界にもグローバル化の波が押し寄せている。

【感想】
仮に登山がスポーツであるとするなら、これほど致死率の高い行為があるだろうか?
それも練習と経験を積んで熟達者となっても死亡率は高い。
生と死の境目を見極め、ぎりぎりの線を見切ろうとするからであろう。
普通に登っても、満足感が得られないから。
成功すれば、さらに危険度が増したルートを選択していく。
練習を積み、技を磨いて死に近づいていく。
なんと理不尽なことか。

普段は臆病すぎるほど慎重に、いざという時は、大胆に。
このタイミングを極め、尚且つ運の良いものが生き残るのだろう。

【ネット上の紹介】
1950年のアンナプルナ初登頂から60年を経た今日に至るまで、ヒマラヤ登山はどのように変遷し、どこに向かっていこうとするのか。『岩と雪』元編集長による8000メートル峰登攀史の集大成。

[目次]
マウント・エヴェレスト
K2
カンチェンジュンガ
ローツェ
マカルー
チョー・オユー
ダウラギリ1峰
マナスル
ナンガ・パルバット
アンナプルナ1峰
ガッシャブルム1峰
ブロード・ピーク
ガッシャブルム2峰
シシャ・パンマ