とある飛空士への追憶
2011年/日本
印象の薄い‘追憶’
総合 40点
ストーリー 0点
キャスト 0点
演出 0点
ビジュアル 0点
音楽 0点
作画は美しく、キャラクターデザインも悪くはないのであるが、『サマーウォーズ』(細田守監督 2009年)にも感じたように奥寺佐渡子による脚本が良くない。
飛空士として最高の操縦技量を持つ主人公の狩乃シャルルがファナ・デル・モラルを乗せて敵が制空権を握る中央海を単機で渡る時に、敵方の天ツ上海軍空艇兵団の航空編隊に四方八方を囲まれたシャルルは、その腕前を発揮する絶好のチャンスであるにも関わらず、結果としては腕前で乗り切ったというよりも、敵方の鈍臭さで助かったように見える。寧ろシャルルの凄さは奇跡的な怪我の回復力である。
『とある飛空士への追憶』を観て思い出す『ルパン三世 カリオストロの城』(宮駿監督 1979年)のような活写も無く、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(押井守監督 2008年)のような大胆な作画の工夫も見られずに物語を無難にまとめてしまったために印象の薄い‘追憶’になってしまっている。
遅まきながら内田樹の『日本辺境論』を読んで驚いた事が書かれていた。『愛を読むひと』
(スティーブン・ダルドリー監督 2008年)のケイト・ウィンスレットが演じた主人公のハンナ
の字が読めない理由を“難読症”としているのである。「これはこの映画のサイドストーリー
にすぎないのですけれど、難読症をめぐるある種の物語の典型をなぞっています。文字が
読めないことをひた隠しにしたまま、成人して市民生活を送っている人物が周囲には理解
しがたい奇矯な行動を取り、怪訝なまなざしを浴びて、それがいつ『ばれるか』というのが
サスペンスの基軸になっている。(p.223)」内田樹が難読症を「左脳のどこかに障害が
あるようです(p.222)」という病気と考えているならば、作品の後半でハンナが本を読める
ようになる原因が分からなくなる。この作品においては時代背景などを勘案すればハンナ
は難読症というよりも教育を受けられなかったと考える方が理にかなっていると思う。
一応、内田樹は映画論も専門としているのであるが、“読み”が甘いのではないだろうか