MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『サード・パーソン』

2014-07-07 22:50:02 | goo映画レビュー

原題:『Third Person』
監督:ポール・ハギス
脚本:ポール・ハギス
撮影:ジャンフィリッポ・コルティチェッリ
出演:リーアム・ニーソン/ミラ・クニス/エイドリアン・ブロディ/オリヴィア・ワイルド
2013年/アメリカ・イギリス・ベルギー・ドイツ

「Watch me」と「White」を巡る考察

 なかなかレビューが難しい作品で、敢えてストーリーには踏み込まずに論じておきたい。本作のキーワードとなる「Watch me(私を見て)」という言葉は決して主人公の小説家のマイケルの幻聴ではなく、例えば、6歳の息子のために人形を買いに行ったジュリアがお金が無く買えなかったために一体だけ持ち逃げしてしまった際にも聞こえており、「Watch me」と発する人たちは、ジュリアの息子やマイケルの目の前で溺死してしまった彼の亡き娘、あるいはロマ族の女性のモニカの娘のような子供たちであり、その中には父親に「囲われて」いるアンナも含まれているように思う。
 あるいは「White(白)」も本作のキーワードであるだろう。マイケルは最新小説に「白」の定義として「Trust(信用)」や「Belief(信頼)」としているように、マイケルがアンナに贈った大量の白い花束や、モニカが最後に乗ってきたクルマの色も白である。だから逆にジュリアの元夫で白いキャンバスに色を塗る仕事をしているモダンアーティストのリックは、無理やり手に塗料を付けられて塗らされる息子からも厳しい目が注がれることになるのであるが、マイケルは同時に「白」の定義を「Lies he tells himself(自分自身に対する嘘)」ともしており、小説家のマイケル、ファッションブランドからデザインを盗む仕事をしているショーン、そしてアーティストのリック共に「嘘」を仕事にしている点で当てはまる。しかしこの「白」の定義の不安定さがストーリーを複雑にしてしまい本作を分かりにくいものにしている。監督は本作を『欲望(Blowup)』(ミケランジェロ・アントニオーニ監督 1967年)のように描くつもりだったようだが、あたかも幻想を現実のように見なしてしまう『欲望』と比較するならば、次々と語られていた女性たちが消えてしまう本作には幻想の力強さが感じられない。


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