MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『グランド・ブダペスト・ホテル』

2014-07-11 23:41:29 | goo映画レビュー

原題:『The Grand Budapest Hotel』
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
撮影:ロバート・D・イェーマン
出演:レイフ・ファインズ/F・マーリー・エイブラハム/マチュー・アマルリック
2014年/ドイツ・イギリス

快楽そのものの映像について

 冒頭で現れる現代の少女はある作家の像の前でその作家の本を読み始める。その作家は1968年に「グランド・ブダペスト・ホテル」を訪れ、ホテルのオーナーであるゼロ・ムスタファから、1932年頃に一緒に働いていた伝説のコンシェルジュ、ムッシュ・グスタヴ・Hの話を聞くのであるが、1968年が描かれる画面がシネマスコープ、1932年が描かれる画面がヴィスタサイズ、そして読書をしている少女が描かれる画面がその中間のサイズに統一され、ウェス・アンダーソン監督は徹底的に形式にこだわる意志を見せる。それは画面のみならず、例えば、若きゼロ・ムスタファ(Zero Moustafa)が婚約者のアガサ(Agatha)に渡すプレゼントに添えた文面には「ZからAへ」と書かれており、そのネタは、ゼロと共に牢獄から脱出したムッシュ・グスタヴ・Hを追いかけるために警官が「AからZまで探せ」と街の名前の頭文字としてギャグに取り入れられ、形式主義は徹底される。
 まるでカメラをパンさせれば、あるいはカメラをドリーで横移動させれば何かが起こるであろうという楽観主義は、究極の形式主義と合わせて今のところウェス・アンダーソン監督だけに与えられた特権であるかのように、私たちはもはやストーリーなど気にする必要さえなく、ただ画面の美しさに見とれていればいいかのようだ。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする