青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。写真はおおめ、文章はこいめ、コメントはすくなめ。

千曲墨流

2019年01月08日 22時00分00秒 | 飯山線

(水墨画の世界@国道403号・市川橋)

夜が明けても、北信国境の谷あいは、未だ暗がりの中にありました。雪の中を堂々と流れる、日本の大河・千曲川。触ると切れてしまいそうな、鋼(ハガネ)の色をしたその水は、何物をも寄せ付けないような不気味な迫力がありました。国道117号線から桑名川の照岡の集落を結ぶ市川橋。この橋も国道403号というローカル国道に指定されておるのでありますが、この国道403号、長野県は松本市を出て、麻績村から姨捨、千曲、旧屋代線に沿って須坂、中野と河東地方を行く裏国道。国道と言うにはちょっと格落ちの、古い街道筋を繋ぎながらここ桑名川で千曲川を渡り、人跡未踏の開田山地を伏野峠という名もなき峠で越えて安塚に至ります。


とっぷりと雪に沈む桑名川の集落。つい先日の秋の日に輝いていた駅のイチョウを遠くに。今や立派に枝々に雪を纏い、それはそれで美しい雪のオブジェと化している。立派な屋根を持つ、北信地方らしい旧家。寄棟の屋根のてっぺんに、家紋が付いているのがカッコいい。比較的桑名川の駅周辺の集落は消パイ(消雪パイプ)が入っている方だと思うのですが、それでも家々の路地には行き渡っておらず、家の周りに池から引いた水を流して積雪を防止しています。


雪に閉ざされた、茫漠たる千曲川の河岸段丘。時折通る除雪車の大きなモーター音の他は静謐極まりない、完全なるモノクロームの世界だ。この辺り、千曲川の右岸は野沢温泉村、左岸は飯山市になっていて、飯山線は飯山市側を、国道は野沢温泉村側を走っている。国道のバイパスが通じるまでは、飯山線側から千曲川の対岸に渡る橋は少なくて、対岸の七ケ巻や虫生の集落へは、渡し船を使っていたのはご承知の通り。


落雪覆いの下を、雪を蹴散らしながら163Dが走り去る。この日は日中の131Dと136Dを戸狩~森宮間で運休させて除雪を入れるという話になっていたので、この163Dが長野側から十日町に抜ける午前の最終列車。次の下り列車は午後1時過ぎになるのですが…除雪によって運休する列車の代行バスもないあたりが、この区間の流動が極めて少ない閑散区間である事の証なのかもしれません。
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白鳥厳凍

2019年01月08日 22時00分00秒 | 飯山線

(凍て付く@信濃白鳥駅)

体感的な寒さはさほどでもなかったのだが、水分を含んだ重い雪が降り続いていた北信の夜明け前。R117には断続的に除雪が入っていましたが、降っては降ってはずんずん積もる…という童謡の歌詞がぴったりくるような重い重い雪にクルマが足元を取られます。北信の最奥、栄村の集落にある小さな駅を訪ねると、降る雪の中で駅名標が凍り付いていました。


まだ夜も明け切らぬうちから、雪国の集落の朝は、ジャリジャリという除雪車のチェーンの音で始まるようだ。それを合図にしてか知らずか、集落に住む人々が三々五々と道へ出て来て、マイ除雪車で家の周りの雪を器用に遠くに飛ばしている。雪国では、自宅の周りの雪かきは近所付き合いの礼儀の一つと言うけれど、朝もはよからの重労働には頭が下がります。まだ誰も踏み入れていないうっすらと新雪の積もったホームに、ヨソモノが傍若無人に足跡を付けてしまった罪悪感。


123D。時間は朝の6時40分くらい。朝の川口方面の一番列車が、音もなく近づいて来た。本当に雪の中では物音と言う物音は雪に吸収されてしまうなあ。いつも撮影ポイントに選ぶ大門踏切を、今日は白鳥の駅のホームから狙ってみると、線路際に積もった雪がキハの前照灯で朱く照らされて、優しい色合いを結びます。そろそろ日の出の時間なのだけど、この薄暗さはどうだろう。重く垂れ込める北信の雪雲のせいなのか、はたまた平成最後の皆既日食のせいだったのか。


幌と下回りに、巻き上げて来た雪が軽く白粉をはたいたようになっているキハ110のバックショット。パッと見は色気の少ない機能重視の箱型デザインですけれども、平成の世においてJR東日本管内の非電化ローカル線における車両の近代化に寄与したことは疑いの余地はありません。


雪の朝、日曜日という事もあり、車内に乗客の姿はなし。そして信濃白鳥、123Dへの乗客なし。それでも丁寧に北信の村々を結びながら、今日も飯山線が走り出します。軽く雪を巻き上げて走り去る123D。都会人は雪の持つ美しさ、純白さ、そしてその儚さに夢を見るけれども、雪国の人々は、降る雪に恨めしく空を見上げながら、遠い遠い春を待っている。
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