青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

北勢支えて80年

2020年08月24日 17時00分00秒 | 三岐鉄道・北勢線

(藤原岳を仰ぎ見て@東藤原駅)

積み込みを終え、出発線で出発待ちの3712レ。朝のセメント2便です。お盆明けのこの日、セメントはダイヤ通りに動いていましたが、3710レの後に、いつもだったら東藤原へ向かうはずの朝のフライアッシュ(富田→東藤原)は運転がありませんでした。フライアッシュの財源は碧南火力発電所の石炭ガラ(焼却灰)なんですけど、どうもお盆期間中は運転がなかったそうで。お盆だから発電を休んでいるという訳でもなさそうですが、荷扱い業務がお休みだったんですかね。

藤原岳を後にして、3712レがゆるゆると東藤原を発車。東禅寺のひまわり畑の脇を抜けて行きます。基本的に東藤原からの積載のセメント貨は山から降りて行く感じになるので、一回牽き出してからはあとは空制で抑え込んで行く感じですかね。後方に見える太平洋セメント藤原工場のセメントキルンがカッコいいですな。

鈴鹿山脈の山ふところから、四日市の港の先にある太平洋セメントの出荷センターまでのセメント輸送を担う三岐の貨物列車。以前はセメントの他にも藤原工場で使われる燃料や骨材(セメントに混ぜる土砂の類)の輸送などもありバラエティがあったそうですが、今は完成したセメントの輸送と、知多半島の碧南火力発電所との間で行われる脱硫用の炭酸カルシウム&フライアッシュ(焼却灰)の輸送のみとなっています。同じ太平洋セメントのグループ会社である秩父鉄道はセメントの原料である石灰石(鉱石)の輸送ですが、三岐は完成品としてのセメント輸送であるところが異なります。

朝の1便で下って行った列車が、返空で四日市から戻って来たようです。三岐の電気機関車は、富田側のパンタを1基ずつ上げたスタイルで走るのが一般的で、後パンになる返空列車は穏やかな雰囲気の印象になります。お盆を過ぎて色付きを増す山城の田園地帯を、ツリカケの音を重々しく響かせて走って行く三岐のセメント貨物。2台の茶色の電気機関車が16両のタキ車を引き連ねる姿は、黒い幌馬車の隊列のようです。

実り間近の青田と、重々しい瓦屋根を葺いた旧家の脇を抜けて。藤原岳における石灰石採掘は、昭和の初めからもう80年以上も続けられて来た北勢地区の伝統産業ですが、その輸送の中核を担うべく昭和6年に敷設されたのが三岐鉄道でもあります。今日もその設立の目的に忠実に、地味ながらも確実な輸送を続ける姿に惹かれてしまいますよね・・・個人的に秩父鉄道や三岐鉄道の貨物列車に惹かれてしまうのは、古風な私鉄の40t級のD型電機が飾り気のない貨車を引いて活躍している姿もそうですが、セメント輸送やその原料輸送など「純然たる地場産業の中核」として、鉄道貨物輸送が有機的に機能しているという事実に惹かれてしまうというのもあるんです。ようは「鉄道が地元の産業を支えて、生き生きとしている姿」が見られる嬉しさなんだなあ。分かりますかねこの感覚。


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