青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

在りし日の ヤマの賑わい そのままに  

2020年03月16日 22時00分00秒 | 片上鉄道(保存鉄道)

(美作線・ネオポリス東5丁目行き@宇野バス)

岡山駅1Fのマックで軽く朝メシを食った後、岡山駅前12番乗り場から宇野バスの「ネオポリス東5丁目行き」に乗る。岡山駅は地方交通のオピニオンリーダーとしても著名な小嶋光信総帥がトップを務める両備バス、同じ両備グループの岡電バス、そして岡山県東部に勢力を持つ宇野バスの3社のバスがとにかくひっきりなしに駅前のロータリーに入って来る。結構バス会社同士の並行路線での鎬の削り合いに加え、新規参入の業者が入り乱れて岡山中心部のバス事情は群雄割拠の状態なんだとか。

今日は岡山県のとある山奥まで、前々から行きたかったところがあるのでこんな朝早くからよく分からない行き先(失礼)のバスに乗っている訳なのですが、走り出した宇野バスは岡山の中心部を抜け、旭川に沿って東へ向かって行きます。しかし岡山のバスは料金がおっそろしく安いのね・・・初乗りが100円スタートで、中心市街を抜けてしばらく経っても200円を超えない。津山線の法界院駅前を通ったのだが、ここまでで岡山駅から140円。津山線で150円。バスが鉄道より安いってあまりないような。

宇野バスを赤磐市の新道穂崎バス停で下車。今度は赤磐市の広域路線バス・湯郷温泉経由林野駅行きに乗り換え。病院の送迎車のようなマイクロバスである。コミュニティバスだからしょうがないか。岡山からのネオポリス行きには色んな客が乗っていたんだけど、ここで乗り換える人間の顔ぶれを見るとだいぶ目的が絞り込まれたような気がする(笑)。

バスは県道27号線を北に北に進んでいく。次第に車窓は中国地方の中山間地に変わり、枯れた田んぼに霜が降りるような朝の風景の中を走って行く。一応各集落に停留所らしきものはあれど、乗る人も降りる人も極めて稀な利用状況である。それにしても新道穂崎から姫新線の林野駅までは片道40kmくらいあるのだからえらい長距離のコミュバスだな。前の日に琴電志度から乗ったコミュバスも相当のロングランだったけど・・・

バスはいくつかの峠を抜け、吉井川沿いの流域に入って行く。林野駅行きのバスを「高下(こうげ)」で降りる。新道穂崎から約50分で550円。高下のバス停は、旧赤磐郡吉井町の周匝(すさい)地区の外れにあり、周囲を山に囲まれた何という事もない静かな農村であった・・・のだが、ここで新道穂崎から乗った10人弱の乗客の全員が降りた(笑)。みんな行くトコは一緒だよってか。

コミュバスの高下バス停から、T字路を右に折れて100mほど行った場所に「中鉄北部バス」の高下バス停がある。「中鉄」って鉄道会社なの?という疑問があるのだが、元は現在のJR津山線や吉備線を運営していた「中国鉄道」というれっきとした鉄道会社だったそうだ。両線が戦時買収により国有化された後は、バス専業会社として岡山県の北部にネットワークを持っている会社なんだそうで。

やって来たバスは、こんなレトロな車両まだ使ってるんですね、というような感じの90年代前半っぽい日野の古い路線バスだった。高下発の津山駅前経由スポーツセンター行き。余談ですけど岡山・広島にはかつては鉄道会社だったバス会社と言うのが結構あって、この中鉄バスの他にも下電バス(下津井電鉄)、ともてつバス(鞆の浦鉄道)、井笠バス(井笠鉄道)なんかがそうだったっけな。

高下を出たバスは、吉井川の左岸を15分程度走ったあと、右に曲がってトンガリ屋根の駅舎の前で停まり、バスの乗客が全員下車しました。ここが今回の目的地である旧吉ヶ原(きちがはら)駅。平成3年まで、瀬戸内海に面した片上港から、山陽本線の和気駅を通って旧柵原町の柵原鉱山を結んでいた同和鉱業片上鉄道。東洋有数の硫化鉄鉱の鉱山として栄えた柵原鉱山ですが、閉山後はここ吉ヶ原の駅を中心に「柵原ふれあい鉱山公園」として整備され、その中には柵原鉱山の栄華の歴史を伝える博物館と、鉱石の出荷の中核を担った片上鉄道が、「片上鉄道保存会」の皆様の手によって保存されているのです。

なんとなく、街道沿いのドライブインを思わせるような、トンガリ屋根がお洒落な吉ヶ原の駅。「片上鉄道保存会」の皆様の凄いところは、ただ昔に使われていた車両と駅を保存しているだけでなく(それだけでも凄い事ですけど)、実際に車両も線路も運転できる形・・・いわゆる「動態保存」で鉄道を保存しているところにあります。今日はそんな片上鉄道保存会の月一回の運転日。これを目当てに、岡山からバスを3本も乗り継いで、2時間かけてここまで来たんだってばよ。

ホームに出ると、今日の運転会の使用車両と思われるキハ702号が、ガラガラガラ・・・と独特のアイドリング音を奏でながらスタンバイ中。元国鉄キハ07形。1930年代製造のクラシカルな気動車です。こんな鉄道博物館で保存されていてもおかしくない半流型のレトロ気動車が、今でも生き続けている吉ヶ原。この片上鉄道の保存運転は、長い事行きたいと思っていた場所でもあり、感慨深いものがありますね。この日は運転会を楽しみながら、在りし日の鉱山町に思いを馳せる、そんな一日になりそうです。


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