(昼に憩う@黄福柵原駅)
展示運転会の昼休み。午前中の最終便のキハは、吉ヶ原には戻らずに黄福柵原駅で昼休みを過ごします。約1時間のインターバルのうちに、車両の点検や確認作業を実施してまた午後の運転会に向かうようです。ホームでアイドリング中のキハ702、漂うディーゼルエンジンの重油の薫りが鼻をくすぐりますなあ。普通の人が嗅いだら「臭い!」で終わってしまう匂いだけど、男の子はこういう匂いが好きなもの。半流線型の車体が高くなった冬の日差しに輝きます。
側線に置かれていた軌道トロッコとキハ702。キハ702の台車は、今となってはとても珍しい菱枠台車という鋼板を張り合わせたような独特の形をしています。鋼板の台枠が板バネを挟み込んでいるような仕組みになっていて、正直乗り心地は相当に硬いですね。かつての鹿島鉄道(茨城)で走っていたキハにもこの台車が使われてまして、乗りに行ったこともあるんですが、まさに悪路をジープで走るがごとくの揺れとバウンドで凄まじかった覚えが(まあ廃線間際の保線状況だったことも加味しないとなんですが)。この手の台車が使われているのは貨車か、国産気動車の黎明期の話になるのですが、このキハ07はそんな気動車の黎明期の車両でございます。車輪は自転車よろしくスポーク型になっているのだけど、これは鋳鉄製のブレーキを押し付けることで発生する摩擦熱を逃がすために、車輪の肉抜きをすることで表面積を大きくし、熱の放散を促進するための仕組みなのだとか。蒸気機関車でもC55とかにスポーク動輪が用いられてると思ったけど、あれも軸焼けを防止するための仕組みだったですね・・・。
そしてキハの駆動を支えるのがDMH17エンジン。接近して見てみると、ガラガラとした独特のアイドリング音を立てながらシャフトが回っています。床下でエンジンの噴き上がりやギアの回転をチェックしていたメカニックの方が言うには、年代物の車両を維持管理するのに一番大変なのが部品の確保だそうで、「ガスケットのオイルシールがもう最後の一枚だよ!」なんてボヤきながらいろいろと教えて下さいました。この独特のエンジンの音をひたすら聞いていると、読経のような抑揚があって禅の世界のようでもある。エンジンは生き物。
保守管理、運行、駅務、保存運転に関わる方々の姿。車両と風景の魅力以上に、ヒトの魅力に溢れているのが吉ヶ原の保存鉄道です。油の染みた手で、床下に潜る整備士さん。「CONDUCTOR」の赤腕章も凛々しく、ナッパ服に身を包んだ車掌さん。フライキを持った駅員さん。そして金のラインの帽子が凛々しい駅長さん。それぞれがそれぞれに規律だった規則正しい所作で、凛として運転会の安全運行を担っています。さすがに30年近く続けられて来た活動だけに、なまなかの鉄道マンよりよっぽど皆さん魅せ方が分かっているなあと言うのが感想で、惚れ惚れしてしまいますね。
こんな素敵な運転会ですが、自分が参加した2月の運転会以降、新型コロナウィルスの感染蔓延に伴うイベントの開催自粛の動きもあり、3月の運転会は中止されてしまいました。以降の実施の見通しも、現状は不透明と言わざるを得ない状況なのかなと思います。ギリギリで参加出来て良かったとも思うんですが、早期の再開を願いたいものです。
文面を楽しませ頂きました。
有難うございます。
引き続きよろしくお願いします。