(古豪の勇姿そのままに@「電車食堂・マスタードシード」)
「電車食堂・マスタードシード」さんの店舗部分として第二の人生を送る東武5700系。昭和26年に当時は埼玉県の蕨にあった日本車輛東京支店で製造。東武の戦後復興のシンボルとして、日本有数の行楽地である日光・鬼怒川への優等列車へ充当された車輛でもあります。昭和35年に1720系DRC(デラックスロマンスカー)が登場して以降は第一線は引いたものの、引退まで一貫して優等・団体列車にその身を捧げた、文字通りの東武の名優。さすがに車齢で言えば70歳のオールドタイマーであって、多少外板部には傷みも見られますが、その姿から隠しようのない気品が伝わって来ます。
改めて近付いて別角度で。小豆色がかったベージュの窓周りと落ち着いたマルーンの色合い。何度か塗り直していると思うので現役当時と色合いはやや変わっているのだろうけど、国電流れの7300系辺りに共通する東武戦後デザインのお顔と、優等車輛らしい車端部の片開きドア。ブタっ鼻のおでこの2灯ライトはED5080とかと共通の、いかにもな東武の艤装品と言う感じがしますけど、幌枠と窓の上下のウインドシル&ヘッダーが醸し出す彫りの深さが最高です。このお店は5700系のクハ車とモハ車を鍵型に並べ、2両の合わせ目の部分に時計台風のかわいらしいエントランスを設けています。
しばし名優の姿に浸りきっていたら、そんな謂れは知る由もない子供から「お腹空いたよ!早く行こうよ!」とソデを掴まれた。お店のエントランス周りはアメリカンな雰囲気の中にも既にクリスマスのデコレーションで彩られていて、一年が過ぎ去る早さみたいなものを感じてしまった。来週になったらもう12月だもんなあ。
駐車場の混雑ぶりから察してはいましたが、お店のテーブル席(クハ側)は満員という事でカウンター席(モハ側)へ。車輛の壁に沿ってダイニングバー的な設えのカウンターが。調度品の雰囲気はアメリカン&アンティークな感じだけど、純和風の5700系に意外に合っている。5700系のデビュー当時は、GHQの連中も特急に乗ってお忍びで日光へ避暑に…なんてシチュエーションもあったのかな、なんて旧きに思いを馳せてみる。
パスタ・ピザが中心のレストランなのかな、と思わせておいて、ランチでもコース系メニューがあったりといわゆる「ママ友のお集まり」的なニーズにも対応しているようです。私は日替わりランチ、子供は…お子様メニューなのかと思ったら大人メニューのピザランチとか親より高いメニューを頼んで来た(笑)。思えば自分もそうだったなあ。親より高いメニューを頼んだ子供がドヤ顔でセットのオレンジジュースを飲んでいる横でセットサラダ。タマネギパリパリで美味しいです。
子供の頼んだピザランチは、四種のチーズのピザ。ピザ用カッターを持って早くも臨戦態勢の子供にカメラタイムを要求したら、お預けを食らった犬みたいに獰猛な顔をしやがった。生地は薄めのクリスピー型に、チーズがたっぷり。
こちらは私の日替わりランチ。ハンバーグのキノコデミグラスソース。ライス付き。デミグラスソースたっぷり。お行儀悪いのだけど、セットのライスをハヤシライスよろしくたっぷりのデミグラスソースにドボンさせて食べるのが非常に美味であります。
子供と二人で楽しく食事をしていたら、オーナーのご家族の方らしきお母さんが訪ねて来た。神奈川県の片田舎から電車に乗って来た事を告げたら、「遠いところをわざわざ…」と実に丁寧にお礼をいただいてしまった。聞けばこのお店、開業して今年が25周年なんだそうだが、5700系が引退したのが平成3年だから、引退して2年後にこのお店を始めた事になるんですねえ。長年地元に愛されているお店、という事なのでしょうが、現役の車両として走った40年と、第二の人生としてのキャリアの25年、お客さんをもてなし続ける古豪の働きぶりにもただただ敬服。
戸袋窓から柔らかな秋の陽射しが漏れる、暖かな車内。ちなみに、自分はさすがに5700系に乗った経験はない。東武の北千住駅で浅草方の離れにあった待避ホームに止まっているのを、常磐線のホームから数回見た事があるくらいだ。昔の北千住の駅は、真ん中に日比谷線のホームを挟み、日比谷線方面が浅草方で伊勢崎線の下り本線をオーバークロスする配線だった記憶がある。そのオーバークロスの下にあった待避ホームは、いつも人がいなくてガランとしていたんだよね。たぶん5700系の団臨かなんかで、スジの合間を縫って走る列車だったから、北千住の待避線に入ってたんじゃないのかと推測されますが。
お皿を片付けに来る従業員の方、コーヒーを入れてくれる方、次々に遠方から来たことに対しての言葉をかけていただいたのだけど、優しさにあふれるホスピタリティには足を運んで良かったな、と素直に思わせられる暖かさがありました。舌で感じる味とまた違う味というか…子供も良くしてもらったし。東武のロイヤルトレインで過ごすランチタイムは、素敵な時間となりました。
もう少しディテールを出すように現像すれば、惚れ惚れします。
14枚の最後のお写真も好いですね。
PORSCHEの電球カバーといいポスター、傾けた構図が最高です。