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ニセモノの薬が効く、という不思議

2019年11月11日 | ブック・レビュー
興味深い本を読んだ。水口直樹著『僕は偽薬(ぎやく)を売ることにした』(国書刊行会)という本だ。帯には「元製薬会社の研究員が、今<ニセモノ>を売る理由」とある。Amazonの「内容紹介」には、
※トップ画像は、水口氏が経営するプラセボ製薬株式会社のHPから拝借

京大薬学系大学院を修了、製薬会社の研究員として薬品の開発を手がけた著者は、今、偽薬を売っている。それは偽薬が効くからだ。なぜ効くのか科学的には説明できないけれど、「プラセボ(偽薬)効果」という言葉があるくらい厳然と効く。

なぜだろうと突き詰めて考えた時、科学の限界、科学に依拠する現代医療の限界、健康を求める現代人がむしろ不健康になってしまう思考のパターンに気づくことになる。そこに気づく人が増えれば、医療の形は大きく変わらざるを得ない。科学の申し子が、科学の向こう側を透視する超問題作。


「偽薬が効く」というのはよく聞く話だ。値段が安いので「医療費の抑制につながる」と期待されている。Wikipedia「偽薬」によると、

偽薬は、本物の薬のように見える外見をしているが、薬として効く成分は入っていない、偽物の薬の事である。成分として少量ではヒトに対してほとんど薬理的影響のないブドウ糖や乳糖が使われることが多い。

偽薬効果が存在する可能性は広く知られている。特に痛みや下痢、不眠などの症状に対しては、偽薬にもかなりの効果があるとも言われており、治療法のない患者や、副作用などの問題のある患者に対して安息をもたらすために、本人や家族の同意を前提として、時に処方されることがある。


書評まとめ読みサイト「bookbang」に、著者の水口直樹さんへのインタビュー記事が出ている。

「本を書いたのは、ニセモノとして負のイメージがある偽薬の価値を向上させたかったから。偽薬は今は主に介護施設で使われているが、ゆくゆくは医療機関にも広げたい」

偽薬には、飲むことで症状に何らかの改善がみられる「プラセボ(偽薬)効果」があることが知られている。プラセボ効果を得るには偽薬を本物と思わせる必要があるとされ、患者へのインフォームドコンセント(説明と同意)が求められる医療の場で使うのは難しい。それが最近、過敏性大腸炎やうつなどで偽薬と知って飲んでも症状の改善がみられるとの研究結果が報告され、医療の場でも使える可能性が出てきた。

「医薬品に比べ価格が安い偽薬を医療の場で使うことができれば医療費の抑制になる。うつでの偽薬活用で薬の副作用が減れば患者にもメリットだ」

プラセボ効果を得るのとは別の活用法もある。抗生物質の代わりに偽薬を使うのだ。抗生物質はウイルスには効かないが、インフルエンザなどウイルスが原因の病気の患者に渡され、耐性菌を蔓延(まんえん)させる一因となっている。抗生物質を渡すのは患者がほしがるからだが、偽薬に代えれば患者も「薬をもらった」と納得するし、耐性菌の蔓延を防げるかもしれない。

「今はすごい効果がある薬しか薬として認められないが、薬の力でなく、患者と医師の人間関係で改善する病気もある。よりよい医療のために、多くの人に偽薬に関心を持ってもらいたい」


よくテレビなどで、患者がたくさんの薬をいろんな病院からもらいすぎて、かえって体調を損ねているという話を聞く。介護施設では「もっと薬がほしい」と求める老人は多いだろうから、偽薬を処方するというのは意味があるのだろう。

「患者と医師の人間関係で改善する病気もある」というくだりを読んでいて、ふと「これは宗教と似ているな」と思った。「病は気から」ではないが、精神的な安らぎを得ることで改善する病気もあるのだ。

本書のおかげでいろんな「気づき」があった。水口直樹さん、ありがとうございました。
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