年寄りの漬物歴史散歩

 東京つけもの史 政治経済に翻弄される
漬物という食品につながるエピソ-ド

福神漬物語 31

2009年12月11日 | 福神漬
福神漬物語 31
日清戦争時の缶詰御用
牛肉缶詰に石が入っていたと伝えられた事件 

日清戦争が明治27年8月に始まって、11月には難航不落といわれた旅順要塞がたった1日で占領したころ、一隻の陸軍兵士の食料を積載した船が広島から大連に向かった。大連で積み替えた時、荷崩れがあり牛肉缶詰の中から石が出てきた。後で調べたら途中で石と牛肉缶詰とすり替えられたのだったが、事情がわからず当時は新聞記事で納入業者が糾弾されていた。
 足尾鉱毒の告発で知られている衆議院議員田中正造は明治28年2月第8回国会において質問状を出して論争に向かった。(田中正造全集第7巻)
軍隊用牛肉缶詰に買い上げに関する質問書
日清戦争が起こるや軍隊の需要は頗る増加し1日1万個を超えるようになっている。そして牛肉缶詰のごときはその一つである。これを見て投機商人は,製靴商が缶詰を造ったり,タバコ商が缶詰を造ったりしていた。これ等の人々は缶詰製造の経験無く一時の利益を得ようとして粗製濫造になり腐敗して用を成さないものがあった。混ぜ物もあり驚くことは無い。その買い上げ価格も品質によった値段でなく、世間では非難の声が満ち満ちている。
 中略
質問第一 政府が軍隊用牛肉缶詰を原料安価、輸送便利、低価格の地の缶詰を買い上げず価格の高い東京産の買い上げするのはどんな理由か?
質問第二 政府が軍隊用牛肉缶詰の買い上げをするのに経験のある業者のでなく新設の業者から買い上げるのはどんな理由か?

質問第三 政府が軍隊用牛肉缶詰の買い上げをするにあたって取捨選択の方法の順序はどのようなものか?

このような質問状を出していた。明治27.年28年当時において福神漬はまだなじみが無いから(前例が無い)軍隊に採用されるまで大変だっただろう。


今は(日清戦争中)戦時中なればこのような質問はしたくないのだが、軍事費は幾ら国家の負担といえども、彼の姦商と言う輩は官吏をごまかし、軍人の健康に関係あること、総じて衣食住に関係あることの問題を聞くと政府に忠告せざるを得ない。たとえ兵站部の不正という質問するも海陸軍を攻撃することでなく、その軍隊のためと思って質問しているのである。
 さて缶詰の質問は些細なことであるがよく全体の問題を現している。諸君、缶詰というのは生産地で造って、需要の多い所に販売する物である。然るに昨年(明治27年)7月頃から東京で缶詰屋が俄かに増えて,そこから缶詰を軍隊用に買い上げるということは訳のわからない事である。議員諸君、食用の牛肉は兵庫がよく、関東は牛乳用である。兵庫県では明治16年缶詰の技師を雇用し、指導して、10年を経てようやくよいものが出来てきた。
 ところが東京はよその余りものの肉が来るし,なお品が少ない。従って缶詰製造業者がいなかったので、製造経験者もいないのである。しかし昨今の状況を見ると、全国の缶詰業者の十中八九は東京の業者で占領している。


田中正造の演説はまだ続く。演説によると日清戦争が始まると急に東京での缶詰業者が急増したことが解る。

 昨年(明治27年)6月、朝鮮に兵を出すと俄かに東京にて牛肉缶詰の投機的業者が増えている。東京は神戸の牛肉より二割高く、更に品が悪いから、実際は3~4割悪いことになる。(日清戦争)開戦以来7月より10月まで東京も何処も(缶詰の)評判が悪く、特に東京の評判が悪いので改革を行なったが、改革することで気が付いたのは良かったのだけれど、しかし改革する前より悪くなった。それは陸軍経理局が缶詰の評判が悪いからと言って、日本中の缶詰営業者を東京に集めた。参加資格を設けて、資格に応ずるものが東京に出て来いというものであった。ところがこの資格調査をするのに、東京の缶詰屋が60人以上あったので、経理局で調べるといつの間に消えてしまったのである。消えてしまったので関西の熟練した業者の御用を命じれば良い筈であるがところがそうでないのである。田舎も東京も御用を仰せつかったのである。
 缶詰製造の方法を一定にして11月10日までに納入せよと決まったのである。缶詰を検査する技師が1人いて11月一ヶ月かかって東京を検分し、関西へは12月一ヶ月かかって検分終え、1月20日にまた東京に全国の缶詰営業者を呼び出したのであります。度々東京に呼び出されるのも東京の業者は近いから良いけれど全国の業者を東京に呼んで御用を命じているのである。また東京の方は一ヶ月検分が早いから御用の規格が知れており対応が出来ているので買い上げの量が多いのであります。
 缶詰の肉は正しい物でもないものがあるある。牛肉の中に馬の肉や臓物を混ぜても判らないのである。軍人は馬を尊ぶので馬を食べると言うことは好まないので、政府にあえて忠告するのである。今は政府と国民が一体となって敵国と当っているので,姦商の御用商人をけん制し、制裁しなければならないのであります。政府や軍人のため4割も安い神戸の立派な牛肉缶詰業者があるのになぜ頼まないのか。神戸は輸送に便利な港があるのに御用の8~9割を東京の業者に任せると言うことは当局に何か悪い考えがあるのではないだろうか。東京より安く出来る神戸に缶詰の製造所を設け自ら官吏を派遣し監督すれば安く出来るのではないか。


田中正造の考えが後に陸軍に於いて牛肉缶詰を製造する端緒となったのだろうか。この時点ではまだ「石入り牛肉缶詰」の風評は出ていない。
田中正造の国会での追及は東京の俄かに増えた牛肉缶詰業者に御用のほとんど注文が行き、不正・不良品が出回っていることを政府に向かって注意している。
コメント
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