なんだかここは、とってもうすみどり。
■ 川上弘美の夫婦小説、こんなジャンルがあるのかどうか・・・『風花』を読み終えた。
**なんだか。のゆりは思う。
なんだかここは、とってもうすみどり。
いろいろ嫌なこともあるけど、こんなにうすみどりだと、どうでもよくな
っちゃう。**
**間近で波が打ち寄せるのを聞くときの、輪郭のはっきりとした音ではない
のだけれど、海ぜんたいがたなびいているような、たおやかな擦過音を、
たしかにのゆりの耳はとらえたのだった。**
そう、この文体、この表現こそ川上弘美。
結婚して7年の夫婦、のゆりと卓哉。夫の浮気相手が妊娠。かなり危機的な状況にあっても川上弘美が描くこの小説ではどことなく春霞のように輪郭がはっきりしない。この作家の小説に共通するふんわりとした雰囲気が漂う(「真鶴」はそうでもなかったけれど)。主人公ののゆりは夫と別れようか、どうしようか、決心がつかない。のゆりの気持ちも春霞。
季節は巡る。ゆるやかに変化していくふたりの会話・・・。その微妙な変化に気がつかなければこの小説は味わえない。
結局最後までのゆりは夫と別れることなく過ごすが、ラストシーンは暗示的。**のゆりは自分が赤信号を渡っていることに気づいた。止まらずに、このまま渡っちゃえばいいんだ。思いながらのゆりは駆け出した。振り向くと、卓哉は歩道に立ってのゆりを見ていた。**(以下略)
『風花』川上弘美/集英社
メニューリストには浅煎りから深煎りまで15種類くらい載っているだろうか。
カラーチャートによって分かりやすく示されている。
マスターに聞けばこの土地への出店を逡巡したこともあったらしい。確かに穂高のような既にポテンシャルの高い土地に出店する方が集客できるかもしれない。しかしここのような何もない山里に出店することの意義も大きいのではないか、と私は思う。既にある程度完成しつつあるキャンパスに新たな色を付けてもそれ程目立たない。が、白いキャンパスに初めて載せる色のインパクトは大きいのではないか。
地理的な条件とて車で移動すれば10キロ、20キロ大したことではない。それに例えば福岡は日本の中では中心からかなり外れてしまっているが、台湾や韓国、中国などを取りこんだ東アジアというエリアではまさに中心地だ。同様にこの地は周辺に扇状に広がる市町村の要に位置すると捉えることも可能ではないか。捉え方によって状況は変わるのだ。
カフェの窓からは遠く八ヶ岳まで望むことが出来る。落葉松の芽吹きが始まると山は次第にモスグリーンに染まっていく。その様子も窓から見ることが出来そうだ。
まもなく店の前の梅が咲き揃う。黒の外壁に白梅が映えるだろう。
■ 外観写真に写っている横長の窓の室内側には裸電球がこんな風につけられている。木製のブラケットから提げられた電球。設計者の創意工夫によってローコストでオリジナルなことができる。デザインって本当に多様だと思う。
テーブル周りの様子。食事用のテーブルだと小さすぎるがコーヒー用のテーブルだとこの位のサイズがちょうどいい。右側は造り付けのベンチだが、壁に背もたれの板が付けられている。塗り壁でなくても背もたれは必要。
小さなカフェではやはりカウンター周りの設えが室内の雰囲気を規定する。ここでは美しくディスプレイされた何種類ものコーヒー豆のビンがポイント。家具はあまり存在感を主張しすぎない何気ないデザインが好ましい。
ここでSさんから本を紹介してもらった。『左官礼讃』小林澄夫/石風社。私はSさんに『日本の庭園』を紹介した。
休日の読書空間が増えたことは嬉しい。
「カフェ・シュトラッセ」
■ コーヒー通にはよく知られたカフェ、らしい。**東京・浅草の伝説の焙煎所「バッハ」で修行したマスターのこだわりのコーヒーを味わうことができる**と以前建築少年Yさんもこのカフェをブログで紹介していた。
昨年末このカフェが松本市内から山里の村に移転オープンしたと先日友人のSさんからメールで教えてもらった。
早速出かけてみた。先ずは建築観察。
外壁は板張り。樹種は分からないが縦張りで、やや幅広の押縁で押えている。大和張りにも見える。エントランス部分など一部は塗り壁仕上げ。木製建具の框の明るい塗装色が黒に近い外壁色とマッチしている。この外壁の色はコーヒーを連想させる。
オーソドックスな形でも材料や色の使い方でなかなか味わいのある外観ができることが分かる。衒いのないデザインが山里にマッチしている。妻面の横長の窓(私が写っている)が壁の端まであるからここには筋交が入っていない・・・。
内部の仕上げはシンプル。床は無垢のフローリング、壁は鏝むらを出したしっくいの壁、そして天井は小屋組み表し。垂木の上の野地板も見せている。小屋組みは在来木造で使うごく一般的な方法。心地良い空間だ。40×50cmくらいの小さなテーブルが5ヶとカウンター。黒のスチール脚の可愛らしい椅子達。そして裸電球。
さて、自家焙煎珈琲。テレビの食べ歩き番組でタレントが何を食べても「おいしい!」のひと言で済ませるようにここは私も「おいしい!」のひと言。
遠くは諏訪から通うファンがいると聞いた。休日にはここで美味いコーヒーを飲みながら読書、新たな楽しみができた。
「カフェ・シュトラッセ」と「A+!」の設計者は同じ人らしい。